隠れる夜の月


「……お、お待たせしました」
「おかえり。大丈夫だった?」

 リビングスペースのテレビを観ていた拓己が、顔を振り向ける。画面にはニュース番組が映っていた。

「え? ……何がですか」
「ちょっと時間、かかってたから」

 こちらがよく見えなかったのか、上半身ごと振り向き直した拓己が、軽く目を見張った。途端にまた、いたたまれない思いを感じる。

 三花は今、脱衣所の棚にあったバスローブを着ていた。着ていた服を着直すのはおかしいかな……いやでも裸にタオルはさすがに……と悩んだあげく、備え付けのタオルと並んで置かれていたこれを選んだのだったが。
 もしかして、着る方が逆に妙なのだろうか?

 状況的にそうしなければいけない気分になって、体をいつもより念入りに洗ってしまったことを思い返し、なおさら恥ずかしい感情で満たされる。

「あ、あの」

 着替えてきた方がいいですか、と尋ねようとしたが。

「……ちょっと、ヤバいかも」

 拓己のそんな、夢を見ているような声音のつぶやきに遮られる。

「え?」
「何でもない。俺もシャワー浴びてくるから、待ってて」

 そう言って彼は、不自然に思えるほどの素早さでバスルームに飛び込んでいった。
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