隠れる夜の月
◆ ◆ ◆
ひどく忙しい一週間だった。
営業部内、各課間の情報共有が本格的に開始され、担当である三花は実際の連携作業と連絡に忙殺され、さらには通常の業務でも新規の取引が加わったりして、九時過ぎまで残業続きの日々。
金曜の今日になってようやく状況が落ち着いた。この進行具合ならなんとか定時で上がれそうだ。
――大変だったのは、仕事だけが理由ではない。
特に月曜は、地味に残る節々の痛みが、意外とつらかった。思い出さないようにしていても、ふとした瞬間に記憶が呼び覚まされる。殊に、拓己の姿を見かけてしまった時には。
あの夜の、彼の視線。吐息と肌の熱。優しく触れた手のひら――体の奥までつながった、濃密なひととき。
感じた幸せが大きかったからこそ、あの時間は夢にしなければいけない。そう言い聞かせて、ようやく心と頭に馴染んできたところだった。
……それなのに。
定時のチャイムが鳴り、三花が帰り支度を始めた頃。
先に課室を出ていったはずの同僚が、早足で戻ってきた。どうしたのかと思っているうちに、彼女は三花の傍にやって来る。
「瑞原さん、長倉さんがそこで待ってるよ」
「…………え?」
「ずいぶん厳しい顔で立ってるから何事かと思ったら、瑞原に話があるけどまだいるか、って。なんかあったの」