隠れる夜の月
問われて、言葉に詰まる。「なんか」どころではない出来事があったが、口にするわけにはいかない。
「……さ、さあ……情報共有の件かな」
「ああ、今週からだったもんね。経過報告とか?」
「たぶん、そう」
「そっか。じゃあまた来週ね、お疲れ」
お疲れ様、と表向き平静に同僚を見送った三花だが、内心はパニックに陥っていた。
なぜ彼が自分を待っているのか。
何の話があるというのか。
逃げ出したい衝動に駆られるが、課室の出入口は一つしかない。すでにノートパソコンや書類は片付けてしまって、今さら残業のふりをするのも難しい。
逡巡ののち、立ち上がって鞄を肩にかける。
廊下に出ると、日が陰る窓を背に、見慣れた長身の影。
三花を認めて即座に、拓己は足早に近づいてきた。
「話がある」
「……目立つことしないでください」
「君が俺を避けるからだ」
何の前置きもなく、手首を掴まれる。引こうとしたが許してもらえず、退社する社員たちから好奇の目を向けられながらたどり着いたのは、同じフロアにある小会議室のひとつ。
中へ連れ込まれ、鍵をかけられた。驚きで固まっているうちに、壁に追い詰められるような格好になる。
「どうして、あんな消え方したんだ」
核心を突くように問われ、とっさに言葉を返せないでいると。