隠れる夜の月
「『好き』も、それ以外の言葉も、私は言われませんでした。それってつまり、言うつもりがなかったから……ですよね?」
知らず、声が震えていた。
拓己は困惑を見せながらも、目をそらさなかった。
「……今、言うよ。あの夜からずっと後悔してきた。あの時に好きだ、って言わなかったこと。君を手放したくないって伝えなかったこと。だから――今言わせてほしい」
彼が何かを言いかけた瞬間、三花はもう一度首を振った。
「もう、言わないでください」
見上げると、動きかけた拓己の唇が止まった。
「……満足したでしょう? あの夜。一度抱いたら気が済んだ、どんな女か充分わかった、それでいいじゃないですか」
決して、本音ではなかった。
そんなふうに自分で思おうとするのはつらい。
けれどそう思わなければ、そう言わなければ、この胸の苦しさをどうしようもなかった。
「三花、俺は」
「違うって言うなら、あの朝、どうして追いかけてこなかったんですか。電話ひとつかけてこなかったじゃないですか」
「……」
拓己の沈黙が、三花には肯定に感じた。
そういうふうに、受け取ることにした。
「だから、これでおしまいにしてください。……失礼します」
そう言い残し、拓己の腕から逃れ、小会議室を出る。
彼は追ってこなかった。