隠れる夜の月

 居間では、父親の直敏(なおとし)がソファに腰掛け、新聞を読んでいた。
 こちらの気配に気づいて顔を上げた瞬間、やわらかい笑みを浮かべて口を開く。

「元気そうだな、三花」
「元気よ。お父さんは?」
「見ての通りだ。久しぶりに会えて嬉しい、と言いたいが……ちょっと、話があってな」
「……何かあったの?」

 両親のまとう空気が、いつもと違うことに気づかざるを得ない。
 二人とも、娘の帰省を心からは喜べない、というようなぎこちない笑い方をしていた。

 お茶を運んできた廸子は、座るなり、膝の上で手を組んで目を伏せる。
 湯呑みを一口だけすすった直敏が、静かに口を開く。

「おまえに、お見合いの話が来てる」
「……え?」

 思わず聞き返した声が、やけに大きく室内に響く。
 これまで、両親に結婚を急かされたことはない。女の幸せは結婚、などと押し付けられたことも一切なかった。だからいきなり「お見合い」と言われても、現実感が出てこない。

「誰から?」
「お母さんの親戚筋から、連絡があって」
「お母さんの、親戚……?」

 いよいよ、わからなくなってきた。
 母、廸子は結婚を機に実家と縁を切ったはず。その親戚とはいったい、どういうことなのか。

「……でも、お母さんは昔」

 三花が言いかけた時、廸子がゆっくりと顔を上げる。

「そう。お父さんと結婚する時、私は実家とも家族とも縁を切った。切られた、と言った方が正しいでしょうけどね。ずっと音信不通だったけど、今回の話をきっかけに、連絡が来るようになったの」
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