隠れる夜の月

「――お母さんの、実家って? どんな家だったの」

 そう尋ねた自分の声は、どこか乾いていると三花は思った。

「必要がないと思ってたから、ちゃんと話したことはなかったわね。……昔の、旧財閥の分家筋なのだけど、私は家の決めた婚約者じゃなく、お父さんを選んで、勘当されたの」

 廸子が明かした苗字は、経済界では有名な、大手建築業の創業家のものだった。
 母の実家がそんな大きな家に連なることなど、想像したこともなかった。
 三花が呆然とする中、母の話は続く。

「どうしてかは知らないけど、うちに『年頃の娘』がいることを知ったらしくて……ある親戚から、娘さんに興味がある人がいる、と言ってきたの」

 長年語られることのなかった、廸子の実家。
 地元で旧家と呼ばれる家だったことだけは、三花も聞いたことがある。
 けれど廸子は一度も振り返る様子を見せずに、ただ実直に、今の家庭を大切にしてきた。

「最初は、断るつもりだったんだ。けどな」

 口をつぐんだ迪子に変わり、今度は直敏が説明する。

「この話を機会にご両親との断絶を解いたらどうか、って言われて、母さんが『もしそうできるなら』ってーーこの三十年、縁は切ってても、ずっと気になってはいたから」
「……そんなこと、今さら」
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