隠れる夜の月
「できるとは思ってなかったよ。だが、あちらも年齢が年齢だからか、寂しいらしくてね。孫がいるなら会ってみたい、とも言ってくれてるそうだ。母さんは一人娘だったから」
迪子は何も言わなかった。ただ、少しだけ寂しそうに笑った。
「無理に結婚してくれってわけじゃない。でも一度会ってみてもらえないかって話でね。話を聞くだけでもいいからと」
直敏の言葉に、三花は膝の上で組み合わせた両手を、半ば無意識に握る。
頭の中ではずっと、断る理由を探している。
だが同時に、こういう「機会」が今の両親にとって意味を持つのだと、直感していた。
(私が話を受ければ、母の勘当は解けるかもしれない)
(長い間、黙って抱えていた二人の重荷が、少しでも軽くなるなら)
(……それに、あの人との関係はもう終わってる。これ以上夢を見ないで済む)
「わかった。話だけでも聞いてみる」
三花が答えると、両親はそれぞれに、わずかに瞳を揺らした。
そして、何かをこらえるようにうなずいた。
「ありがとう、三花」
「すまない。だが本当に、無理をすることはないからな」
泣き笑いを浮かべる迪子と、安堵と心配を見せる直敏に笑いかけながら、三花は自分に言い聞かせる。
(これでよかった。お父さんとお母さんが、ちゃんと認めてもらえるのなら)
そう考えながらも、心に浮かび上がってくる、かすかな面影。
それを押し込めるように、三花はしばし目をつむって、両手をもう一度強く握った。