隠れる夜の月

 あれから何度思い出しても、最後に話をした時の、深い諦めを浮かべた表情ばかりが浮かんでくる。
 目を潤ませながらも、自分の前で泣きはしなかった三花。その分、後でたくさん泣いたのだろうと考えると、今でも胸を突き刺されたような痛みを感じる。

 彼女にあんな、絶望に近い諦めを味わわせたまま、放っておきたくはなかった。

 もう一度、どうにかして話をしたい。しかし近頃、営業二課は大きな取引案件が入ったらしく多忙な様子で、社内でまったく行き会えない。終業後に何度か二課を訪ねてみたが、「瑞原さんは家の用事でもう帰った」と言われるばかりだった。

 だが、拓己までが諦めてしまうわけにはいかなかった。
 何年もかかってやっと、自分には三花しかいないとわかったのだ。その思いをなかったものにすることなど、できるはずがない。

『まったく、お坊ちゃんは肝心なところで詰めが甘いね。最初からはっきりそう言えばよかったんだよ』

 数日前、向山と久しぶりに飲みに行ってすべての経緯を話した時、そんなふうに言われた。

 言われるまでもなくその通りだ。
 彼女を抱いた夜に、ちゃんと想いを伝えていれば。君しか考えられないのだと、きちんと口にしていれば。

 しかし過去に戻ることはできないし、言わなかった事実は変えようもない。
 ならばこれからの時間の中で、伝えていかなければいけない。三花が信じてくれるまで何度でも。
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