隠れる夜の月

 初子もとりなすように言うが、とても普段通りに話せる雰囲気でも気分でもない。
 あの夜の一件が起こる前なら違ったかもしれないが――いやそれでも、多少の緊張は避けられなかっただろう。親たちの前で恋愛感情をストレートに表せるはずもない。

 その時。

「すみません、しばらく二人きりにしていただけませんか」

 最初の挨拶以外、それまで口を開くことのなかった拓己が、唐突にそう申し出た。
 三花はもちろん、双方の親も仲人夫妻も驚きを顔に表したが、ややあって初子がうなずきながら「そうね」と応じる。

「とっくに知り合いなら、親はかえって邪魔かもしれないわね。私たちはしばらく席を外しましょう」
「そうですな。こういう時こそ、若い人は若い人同士で」

 仲人役もそう言いながら立つ動作をしたため、夫人も三花の両親も、従うように次々に立ち上がる。

「恐れ入ります。三十分ほどでかまいませんので」
「あら、せっかくだからゆっくりお話なさいな。終わったら呼びに来させればいいわ」

 振り返りながら言う初子を先頭に、親たちが静かに部屋を出ていった後には、当然ながら拓己と二人きりとなった。
 こんな状況は、小会議室で話をしたあの日以来。
 そもそも、彼とまともに顔をつき合わせることも、あの時以来だった。
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