隠れる夜の月
すう、と微かに吸い込む気配がした後、拓己が口を開いた。
「久しぶりだな」
「……そうですね」
「こんな形で会うなんて、思ってなかった」
「はい」
そこまで言うと、拓己は少し目を伏せ、頭の後ろを掻く。
どこか落ち着きのないその仕草に、彼も緊張しているのだと察した。
しばしの沈黙の後、三花は思い切って、自分から話題を振った。
「あの、……どうして、先輩はここへ? 相手が私だと知ってたんですか」
「いや」
と言いながら浮かべた微笑みは、自嘲めいていた。
「失礼な話だけど、写真も釣書もいっさい見なかった。母親がいつにも増してしつこく勧めるから、断る方が面倒に感じて、会うことにしただけで」
「……私も、誰が来るのかは知りませんでした。このお見合いは母の親戚から来た話だったんです」
拓己が、驚いたように目を軽く見開く。
「お母さんの親戚、って……確か」
「ええ、前にお話ししましたよね、両親が駆け落ち婚だったことは」
「ああ、覚えてる」
「少し前に、急に連絡が来たそうで――知り合いが私に興味を持ったからお見合いしてほしい、そうすれば母の両親は、母の勘当を解いてもいいと思ってる。そう言われたんです」
一度言葉を切り、深く息を吸う。