隠れる夜の月
「母は……父もずっと、絶縁したままでいることを心の底で気にかけていたんです。母の両親も、年齢的になのか、気が弱くなっているとかで……両方をつなぐ役目を私が果たせるなら、と思ってこの話を受けたんです」
今度は三花自身が、自嘲の笑みを浮かべる。
「今思えば、私も相当に失礼なんですけど……相手は誰でもいいと思ったから、釣書を読まなかったんです」
「誰でもいい?」
「いえ、ちょっと違いますね――誰が相手でも、同じだって思ったんです。相手が、先輩でないなら」
三花の言葉に、拓己が再び目を見張った。今度は先ほどよりも大きく。
「……好きな人でないなら、誰と結婚しても変わらないと思ったから。だから何も知らないままでここに来ました。なのに、相手が先輩だなんて――思ってもみませんでした」
初めて口にした想い。この期に及んでもストレートには言えなかったけれど。
「俺もそう思ってた」
「え?」
「誰が相手でも、君じゃないなら同じだって。だから会っても断るつもりで来た――それから今度こそ、ちゃんと伝えようって思った」
にわかに立ち上がった拓己が、机をぐるりと回り、三花の隣へ来る。先ほどまで母が座っていた座布団に正座し、背筋を伸ばした。