隠れる夜の月

「瑞原三花さん。君が好きです。結婚してください」

 そして手を取られる――数か月前、初めて交際と申し込まれた時と同じように。

「もしまだ信じられないなら、何度でも言う。三花が好きだ。初めて会った時から惹かれてた。気づいたのは最近だけど、ずっと好きだった。三花以外と結婚する気はこれっぽちも」
「せ、先輩」

 怒涛のような告白に、恥ずかしさがピークに達してしまう。

「信じます。信じますから、それ以上は……」
「じゃあ、OKしてくれる?」

 三花の手を包み込む彼の両手に、力がこもる。

「俺と結婚して、奥さんになって――俺の子供を産んでほしい」

 いい? と問いかける拓己の目が、これ以上ないほどまっすぐに三花を見つめる。
 出会った時から惹かれた、彼の飾りのない誠実さ。それが今、再び三花の心を強く捕らえた。二度とこの手を離さない、という言葉にしない感情をのせて。

 三花が口にすべき答えは、ただひとつしかない。

「……はい」

 応じた瞬間、拓己が顔いっぱいに喜びを表した。
 手をそっと引き寄せられ、座ったまま抱きしめられる。

「ありがとう」

 耳に落ちてきた囁きは、静かで、それでいて熱がこもっていて。
 三花の胸の内を、あふれんばかりの幸福感で満たしてくれた。
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