隠れる夜の月
最終章
こうして紆余曲折の末、二人は正式に婚約した。
結婚式および披露宴の準備は、思いのほか順調に進んでいった。
「お招きする人数は少なめでいいです。身内と、本当に親しい方だけで」
招待状の送り先を吟味する中、そう言った三花に、拓己も二つ返事で頷いてくれた。
「そうだな。俺たちが、ちゃんと一緒に立てればそれでいい」
派手な演出や儀式的な慣習は、極力省くことにした。結果、ナガクラコーポレーションの跡取りのお披露目としては小規模になったが、二人はもちろんのこと、家族からも異論は出なかった。
唯一、拓己の母・初子だけは当初、式の内容や規模に強い難色を示していたが、最終的には折れてくれた。夫の和志が「二人の門出だ。好きにさせてやれ」と、一言ぴしゃりと言い添えてくれたらしい。
その分、衣装合わせや式次第の打ち合わせは平日の夜に詰め込み、休日は親族への挨拶回りに費やした。当然ながら仕事も普通にしていたため、目の回るような忙しさではあったが、二人にとってはすべてが楽しい準備のひとつだった。詰め込まれた予定の合間に食べる、三花お手製の弁当のおかずについて話す時間も。