隠れる夜の月

 当日まで二カ月を切ったある日。
 打ち合わせを終えた後、夕食がてらの居酒屋で、こんな会話が出た。

「また母さんからメッセージ来てたよ。今からでもお色直しの回数を増やす気ないか、って」

 やれやれ、と言いたげに嘆息する拓己に、三花は苦笑いを返す。

「二回で充分です、ってこないだも言ったんですよ?」
「悪いな。あの人はあの人で、できる限り式を盛り上げたいんだろうけど」
「はい、わかってます。うちの母からも『着物とドレスが楽しみね』ってメッセージが何回も来てますし」

 子供の結婚を控えた母親とは、皆そういうものなのかもしれない。
「まあ、また俺が釘を刺しておくよ」と言った拓己が、ふと表情をやわらげた。

「うちの母親、けっこう期待してるんだと思うんだ。三花のこと」
「えっ」
「助けてもらった時、君が裏表を感じさせなかったところを評価してるんだよ。あの人も昔は人の目を気にして大変だったみたいだから――いまだに、社の前で会ったっていう偶然がすごすぎて、ちょっと信じられない気もするけどさ」
「……なんだか、今さらですけど、恐れ多いですね」
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