Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜

 次の朝、オリヴィアが目を覚ますと、肩肘で上半身を支えながら横になっているエドモンドがすぐ隣にいて、彼女の黒髪を指先にからめながら微笑んでいた。
 つい、オリヴィアも微笑み返す。

「おはようございます……エドモンド」
「おはよう、オリヴィア」
「なにを考えているの? とても……幸せそうだわ」

 エドモンドは、「ああ」と短く返事をして、指にからめていた髪の房を唇に押し当てた。そして、

「アリストテレスの言葉を思い出していた」

 と、寝起きらしい、乾いた男っぽい声で言った。
 オリヴィアは目をしばたたく。

「アリスト……」
「テレス。彼は愛についてあることを言っていた。気にしたことも共感したこともなかったが、今朝だけは、その意味が分かる気がする」

 初夜明けの朝からギリシア哲学を学ぶことになるとは思わなかった。
 しかし、相手はノースウッド伯爵エドモンド・バレット卿なのだ。オリヴィアは大人しく続きを待った。

「彼(いわ)く、『愛とは』」
 エドモンドは優しく微笑み、オリヴィアの耳元に囁くようにして、言った。「『二つの身体に宿る、一つの魂である』と」


 夏の朝日はすでに、ノースウッドの大地を眩しく照らし出していた。
 鳥が鳴き、朝露がかわき、緑がきらめいている。


 カーテンから漏れる日光が、エドモンドの濃い金髪に鈍い輝きを与えていた。オリヴィアはそれに触れ、夫からほとばしる男性的な香りに酔いしれながら、くすくすと笑い声を漏らした。

「そうですね……それはきっと真実だわ。わたしもそう思います」


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