Lord of My Heart 〜呪われ伯爵の白い(はずだった)結婚〜
Lord of My Heart ある伯爵の幸せな結婚
──そして一年後。
屋敷の裏口からこっそりと外に抜け出したオリヴィアは、爽やかな朝露の匂いを胸いっぱいに吸い込み、自然と顔がほころんでくるのを感じた。
抜けるような青い空に、眩しい朝日が燦々と輝いている。
その空を見上げて、オリヴィアはしばし深い感慨に浸った。
またノースウッドに夏が訪れたのだ。
これがオリヴィアにとって二回目になる、ノースウッドの夏だ。
まだ朝食前の時間なのに、屋敷はすでに今日一日の仕事のために慌ただしく動き出していた。
調理場からは焼きたてのパンの甘い香りがして、マギーが誰かに声を上げているのが聞こえる。
早起きの小作人たちがちらほらと、すでに野外の作業場に集まりはじめていた。領主であるエドモンド本人も、なんだかの注文を済ませなければならないといって、すでに寝室を後にしていた。
そんな朝の混乱に乗じて、オリヴィアは首尾よく外に出ることに成功したのだ。
一年前の初夏、はじめてバレット家に足を踏み入れたとき、こんなことになると誰が予想しただろう。
いや、もしかしたら分かる者には分かったのかもしれない。
エドモンドは考えうるかぎり最高の夫となった。
彼は、オリヴィアの優しい恋人であり、強力な支持者であり、夜な夜な甘い愛の言葉をささやく詩人となった。
今までの灰色だった人生を覆い返すかのように、エドモンドは結婚生活を十分に堪能しているようだった。もちろん、それはオリヴィアも同じだ。
二人は鳩のつがいのように仲睦まじかったし、夫であるエドモンドが、それを隠し立てすることは一切なかった。