冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

 よく晴れた十月上旬の土曜日。神馬さんが車で私を連れて行ってくれたのは、栃木県の那須町。

 観光よりはゆっくりしたいからと、途中で休憩したサービスエリア、ランチをしたレストラン以外はどこにも寄らず、午後三時頃に旅館に到着した。

 森に囲まれた旅館の建物は和モダンな平屋建て。神馬さんによると、一日十組しか泊まれない特別な宿らしい。

 駐車場で車を下りると東京よりぐっと気温が低くて、ワンピースの上にカーディガンとブルゾンの両方を羽織っていても、少し寒いくらいだった。

「荷物を貸して。で、空いてる手はこっち」
「えっ。……はい」

 神馬さんは自分のキャリーケースを引きつつ、私のボストンバッグまで肩にかけてくれる。そして自由な方手で私の手を握り、ギュッと繋いで歩きだした。

 恥ずかしいけど、うれしい。寒いと思ったはずがすぐに体がポカポカしてきた。

「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました」

 建物の中へ入ると、着物姿の女性スタッフがフロントの場所まで先導してくれる。落ち着いた和風の内装に合わせているのか、ほんのりお香の香りもした。

 私は宿泊料金を知らないが、きっと高級な旅館なのだろう。スタッフの接客や流れる上質な空気からそれが伝わってくる。

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