冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
父の名前が実名報道されてしまったため家にはいられなくなり、思い出の詰まったピアノとともに売った。
といっても、築二十年を過ぎていたのでほとんど土地代だけ。それを母の葬儀、お墓、弁護士費用、弓弦の学費、引っ越し費用などにあてた。
私はもちろん正社員を目指して就職活動をしたものの、事件のせいでどこの会社からも嫌な顔をされた。
家族のことまでは報道されていないはずなのに、どこからか漏れて伝わるものなんのだろう。それで仕方なく、派遣会社に登録したのだ。
父のことでなにか言われるのも嫌だし、会社に迷惑を掛けるのも本意ではないから、接客よりは裏方的な仕事がよかった。それで選んだのが、食堂で調理を担当する仕事だ。
重いものを運ぶことも多いし、夏場の厨房は冷房を効かせていてもサウナのように暑くなる過酷な肉体労働。
それでも、作業中は無心になれるから逆にありがたいし、お客さんに『ごちそうさま』、『美味しかった』と言われると、幸せを感じる。
また、食堂の同僚には同年代があまりおらず、私服に気を遣わなくていいのも気が楽だった。
掛け持ちしている職場のカフェバーにはお洒落な大学生やフリーターが多く、ファッションにあまりお金をかけられない私は更衣室でちょっと気後れしてしまうのだ。
大事なのは服装より中身だし、新しい服を買ったところで自宅と職場の往復しかしないのだから、あまり意味はない。
そう言い聞かせることで自分を保っているけれど、時々、普通にお洒落や旅行、恋などを楽しんでいる人たちが羨ましくなる。
もちろん、弓弦の前では口にしないけれど――。