冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「ちょうどいい。これから店員の前で婚約者を演じてみろ」
店に入る直前、神馬さんがしれっととんでもないことを言い放つ。
「えっ。そんな、無理です急に!」
「安心しろ。俺も付き合う」
それ、全然安心材料になりませんけど……!
戸惑う私を無視して、彼は店内へ進んでしまう。慌ててその後を追いかけ、パールホワイトを基調とした明るい店内へ足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
ジュエリーと同じくらいきれいな笑顔の女性店員にそう言われると、神馬さんが軽くこちらを振り向き、腕を差し出してくる。
どうやら掴めということらしい。
そっと手を伸ばして服だけを遠慮がちに摘むと、神馬さんがピクッと眉を揺らした。
「……子どもの芝居をしろとは言ってない。婚約者」
私にだけ聞こえる声で、しかし痛烈なダメ出しをする彼。先ほどお遊戯会と言われたばかりなので、ますます悔しくなる。
「わ、わかってます」
こちらも小声で返事をし、やけくそで彼の腕にしがみつく。
神馬さんは仕方のない奴だと言わんばかりにため息を漏らし、店員に向き直ると例の胡散臭い笑顔を浮かべた。
「婚約指輪の相談を予約した神馬と申します」
「神馬様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」
店頭で指輪を見せてもらうのだとばかり思っていたのに、店員は店の奥進み、私たちを個室に案内した。
そこには高級ホテルの一室のような家具や調度品がそろっており、足を踏み入れただけで緊張した。店員に促されるまま、豪華なソファに神馬さんと隣り合って座る。