冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

「お飲み物はいかがなさいますか?」

 手のひらほどの小さなメニューを差し出され、ジュエリーショップなのに飲み物が出てくるの?と声に出さずに驚く。

 コーヒーや紅茶の他シャンパンまで選べるらしいが、どれを選ぶのが正解なのかまったくわからない。助けを求めるように隣の神馬さんを見た。

「俺は車だからコーヒーにするけど、せっかくだから琴里はシャンパンをいただいたら?」

 いつもの神馬さんなら〝早く決めろ〟と圧をかけてきそうなものだけれど、今の彼は猫を被っているから助かった……。

「きょ、鏡太郎さんがそう言うなら飲んじゃおうかな……」
「かしこまりました。少々お待ちください」

 女性店員が一旦席を外すと、緊張がほどけて思わず息をつく。それから室内をキョロキョロ見回し、初めて見るゴージャスな空間に胸をときめかせた。

「すごい。高級なお店では、こんな風に接客してもらえるんですね。紅林さんたちにいいお土産話ができそうです」
「……意外と楽しそうだな」

 ボソッと神馬さんが呟いたので、急に恥ずかしくなる。形だけの婚約指輪を選びにきたのにはしゃぎすぎただろうか。

「す、すみません。こんなお店これまで縁がなかったのでつい……」
「別に呆れたわけじゃない。むしろ感心してる」
「感心……?」

 相変わらず演技も下手な私のいったいどの辺に……?

 続きが聞きたくて彼を見つめていたけれど、すぐに個室のドアが開く。

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