冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

「はい、見せてもらった中では一番素敵です。でも、もう少しお手頃なものでいいかな。食堂の仕事ではどうせ付けられないんですから」
「遠慮するなよ。ま、そういう堅実なところも好きなんだけど」

 至近距離で『好き』だなんて言われ、嘘だとわかっていても火がついたように顔が熱くなった。

 神馬さんはしてやったりというように目を細めて口角を上げていて、仕返しされたのだと気づく。

 か、からかわれた……。悔しい。

「彼女はこう言ってますけど、一生に一度のことなので、この指輪の形とダイヤの大きさをベースにオーダーできますか?」
「もちろんです。そうしましたら、ダイヤのカットと爪の形、それからアーム内側のデザインについても順にご提案させていただきますね」

 俄然張り切りだした店員は、完全に微笑ましいカップルを見る目をしていた。

 周囲を欺くことが私たちの婚約の目的なのだから、間違ったことはしていない。

 それでもくすぐったい気恥ずかしさにはなかなか慣れなくて、時折ふたりの目を盗んで頬を扇いだり、手のひらをあてて冷ましたりした。

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