冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す
「弟の前では言えませんけど、カフェのバイトで働くお洒落な同年代にふと劣等感を抱いたり、テレビやSNSで見るプレシャスハグのジュエリーに憧れたり……そういう気持ちが私の中に間違いなくあって、胸の深いところに降り積もってました。でも今、不思議とそれが薄れてるんです」
俯きがちに話した後、顔を上げて神馬さんを見つめる。彼の瞳にはいつもの冷たさもお芝居の甘さもなく、私の話にちゃんと耳を傾けてくれているのがわかった。
「たぶん、神馬さんとの婚約者ごっこのおかげです。自分が普通の二十代女子なんだってことを思い出させてくれて、ありがとうございました」
ぺこりと頭を下げ、再び彼と目を合わせる。のんきに笑っている私に対し、神馬さんはにこりともしていない。
自分でも変なことを言った自覚はあったので、気まずくなってパッと目を逸らした。
「よ、酔っ払いの戯言ですのでお気になさらず。そろそろ帰りましょう」
神馬さんからは返事がなかったが、車が動き出したので聞き流してくれたと思うことにする。が、しばらくして彼が口を開いた。
「……きみがやけにポジティブな理由がわかった」
「えっ?」
「幸福のハードルが人より低すぎるんだ。別に悪いことじゃないが、もっとワガママに生きてもいいんじゃないかと、個人的には思う。弟さんのことも経済的な心配はいらなくなったんだし、やりたいことや欲しいものがあるなら、遠慮なく言ってみろ。できる限りのことは叶える」
「やりたいことや欲しいもの……」