冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

「それはそうとジンちゃん、人に物を頼む時に『これ』はダメよ。『お茶』と言えばお茶が出てくると思い込んでる昭和のダメ亭主と同じ。琴里ちゃんに熟年離婚されちゃうわよ?」
「あれほど勧められた新メニューをせっかく頼んだのに、なんで文句を言われなきゃいけないんだ……?」

 神馬さんが口の端を引きつらせてそう訴えるので、おかしくてクスクス笑う。このふたりの前では、さすがの神馬さんも形無しだ。

 私たちのやり取りを見ていた紅林さんたちが顔を見合わせ、黄色い声を上げる。

「いや~、なんだかあんたたち本当に仲良くなっちゃったんだねぇ」
「こりゃ、とっくに初夜も済ませたとみた」

 ……え。しょ、初夜?

 そんなことまで突っ込まれるとは思わず、動揺して目が泳ぐ。

 愛し合うふたりなら済ませていて当然なのかもしれないけれど、私たちはあくまで形だけの婚約者。そうあからさまに夜の営みについて勘ぐられるのは、気まずいものがある。

 神馬さんに助けを求めようとしたら彼はさっさとカウンターに背を向けていて〝付き合いきれない〟というオーラを醸し出していた。

 は、薄情者……!

「ジンちゃんったら、逃げたところを見ると図星だね」
「そりゃそうよ。検事だって男だもんさ」

 ふたりの中ではすっかり私と神馬さんが〝初夜〟を済ませたという見解のよう。

 違うと言っても信じてもらえなそうだし、肯定してこれ以上の質問攻めが始まるのも避けたい。

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