冷酷検事は揺るがぬ愛で契約妻を双子ごと取り戻す

「さ、仕事しましょう! 仕事」

 わざとらしいけれど無理やり話を終わらせ、パクチーを取りに冷蔵庫の方へと移動する。

 気まずい話題からは逃れられたものの、恋愛経験皆無な私にとって〝初夜〟のワードは結構インパクトが強くて、私と神馬さんには無縁なことだと理解しているのに鼓動の騒がしさがなかなかおさまらなかった。


 弓弦の新学期が始まった九月。

 保護者として学校への必要な連絡を済ませ、普段通り弓弦も安定した学校生活を送れていることを一週間確認した後、日曜日に神馬さんのマンションへと引っ越した。

 車で迎えに来てくれた彼は、ボストンバッグひとつという私の荷物の少なさに拍子抜けしていた。

 ちょくちょくアパートに帰って弓弦の顔を見たりご飯を作ったりしたいから、本当に必要最低限しか入れてこなかったのだ。

 家具や生活に必要な小物は、神馬さんが夏休みの間にひと通り揃えてくれた。

「至れり尽くせりで申し訳なさすぎるので、せめて家事全般は私に任せてくださいね。神馬さんの方が仕事の拘束時間も長いでしょうから、家ではゆっくりしてください」

 マンションへ向かう車内で、殊勝な婚約者を装って申し出る。

 家事を任せてもらえれば、掃除という名目で彼の私室に入るチャンスもあるはず。

 神馬さんがそれほど悪い人じゃないというのはなんとなくわかってきたけど、だからといって父の事件について無関係と決まったわけじゃない。

 真っ向から聞いて捜査情報を漏らすような人とも思えないから、彼に悟られないようこっそり調べるのが正解だろう。

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