君の鼓動を、もう一度

手術室の中は、静かな緊張感に包まれていた。
　悠斗は手術台に横たわる美咲の姿を見つめ、決して冷静さを失わないようにと自分を励ますように息を整えた。
　「絶対に救ってみせる……」

　手術は順調に進んでいるように思えた。
　彼女の心臓に近づいていくにつれ、美咲の命を繋ぐために必要な処置がひとつひとつ積み重なっていった。

　「美咲、俺がついてる。必ず、終わらせるから」

　悠斗は声をかけるが、美咲は麻酔で意識を失っているため、返事はない。
　それでも、心の中で彼女と繋がっている感覚があり、悠斗は自分に言い聞かせるように、手を動かし続けた。

　だが、突然、モニターが大きく警告を発した。

　「心拍数急上昇！心臓発作、発生！」

　「な、なんだと…」

　悠斗の心拍数も一気に上がった。
　画面には、美咲の心臓が異常な動きをしているのが映し出され、機械音が鳴り響いた。

　「手術を中止します！　急いで救命処置を！」

　メンバーたちの声が飛び交い、悠斗は美咲の心臓に手をかけながらも、冷静に指示を出し続けたが、その顔には焦りが色濃く浮かんでいた。

　「だめだ、もう心臓が耐えられない…！」

　悠斗はその瞬間、全てが無力に感じた。
　自分の力では、美咲を救うことができないのではないか。
　その思いが彼の心を締め付ける。

　「美咲…お願いだから…」

　でも、何もできないまま時間だけが過ぎていった。
　悠斗は思わず目を閉じ、唇を震わせた。



　数十分後、手術は中断された。
　美咲は人工呼吸器で呼吸を補助され、命を繋いでいた。
　その場にいる誰もが息を呑んでその結果を見守っていた。

　悠斗は、無力さを痛感していた。
　自分の無力さが、ただただ美咲の命を危険に晒してしまったように思え、心の中で怒りが湧き上がる。

　「なぜ、俺はこんなにも……」

　その瞬間、美咲の母が手術室に入ってきた。
　悠斗はすぐに顔を上げ、目を合わせた。

　「悠斗くん、手術は……」

　「……できませんでした」

　彼は、言葉にするのが辛くて、声を震わせながら答えた。
　美咲の母は少しだけ肩を落としたが、それでも冷静さを保とうとしていた。

　「でも、まだ終わったわけではないわよね？」

　「はい、まだ最善を尽くします。あきらめません」

　悠斗はその言葉を強く胸に刻んだ。
　その時、彼の中で一つ決意が固まった。



　その夜、悠斗は再び、美咲の病室に足を運んだ。
　美咲は人工呼吸器を装着されたまま、静かな呼吸をしていた。
　悠斗はその横に座り、彼女の手を握りしめた。

　「美咲…こんな姿を見せてごめん。俺は、君を救えなかった。自分の力不足を感じてる」

　悠斗は自分の心情を吐き出すように続けた。

　「でも、諦めない。絶対に、君を助ける方法を見つけるから。だから、待っててほしい」

　美咲は眠っているのか、返事はない。
　しかし、悠斗はその手を強く握り返した。

　「今度は、俺が必ず救う」