君の鼓動を、もう一度
美咲の状態は、日に日に悪化していた。
人工呼吸器をつけたまま眠る彼女の姿を、悠斗は何度も見守り続けていた。しかし、手術のチャンスは再び失われ、医師たちはもう何もできないかもしれないと言った。
「美咲、俺は…どうすればいいんだ…」
悠斗は手術室の外で、一人、肩を落としていた。
目の前の美咲の命が、次第に手の届かないところに遠ざかっていく気がして、彼はどうしても無力感を拭い去れなかった。
その日の夜、美咲が目を覚ましたとき、彼女の目には普段の明るさはなかった。
無理に笑おうとしても、表情は硬く、目の奥に深い痛みが宿っている。
「悠斗くん…」
「美咲、もう少しだけ頑張って、すぐに新しい治療法を試すから」
「もう…無理だよ、悠斗くん。私、どうしても治らないんだって、わかってる。」
美咲の言葉に、悠斗は胸が締め付けられる思いがした。
「そんなことない。諦めないから、絶対に」
「でも、もう疲れたよ。何をやっても、どうせ治らないって…」
美咲は、目をそらしながら続けた。
「私がいなくなっても、誰も悲しまないよ。悠斗くんだって、私のことをもう忘れて、次に進んだ方がいい…」
その言葉に、悠斗は一瞬息が詰まった。
美咲の心が完全に諦めに飲み込まれつつあることを、彼は痛いほど感じていた。
その晩、美咲は何も言わずに病室を出て、ひとりで病院の屋上へと向かった。
彼女は、心の中で何度も繰り返していた。
「もう、終わりにしたい…もう、誰にも迷惑をかけたくない。」
夜の空気は冷たく、風が強く吹き抜けていた。
病院の屋上。フェンスの先に広がる街の光が、あまりにも遠く感じる。
「……ありがとう。今まで、楽しかったよ」
ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟いた美咲は、フェンスに手をかけた。
力ない体で、必死にそれをよじ登ろうとする。
「さようなら」
足をかけたそのとき――
「美咲っ!!」
鋭く、裂けるような声。扉が開き、風を割って悠斗が飛び出してきた。
「待て!!」と叫んだ瞬間には、すでに美咲の身体はフェンスの向こうへ――
「っ……!!」
足をかけた拍子に、美咲の足が空を切った。
体勢を崩し、バランスを失った美咲が、そのまま重力に引かれて――
ガシッ!!
間一髪。悠斗の手が、美咲の手首を掴んだ。
全体重を片手で支えるその手に、悠斗は歯を食いしばる。
「くっ……! 落ちるな、絶対に……!」
「やだ……っ、こわい……!」
宙にぶら下がる形で、美咲の足がぶらぶらと揺れる。
風が強く吹きつけ、彼女の顔に涙が散る。
「離してよ……! もう、いいから……!」
「ふざけるな!! 絶対に離すもんか!!」
悠斗の叫びが、風を裂いた。
「俺は、何があってもお前を救うって決めたんだ。お前がどんなに諦めても、俺は絶対に諦めない!!」
美咲の目が、大きく見開かれる。
「お前が生きてるだけで、どれだけ嬉しいか、どれだけ救われるか……! それをお前がわからなくても、俺は知ってる!!」
「だから――死ぬなっ!!」
その瞬間、悠斗は全身の力を込めて、美咲の身体を引き上げた。
「うわっ……!」と叫びながら、彼女の体がフェンスの内側へと戻る。
崩れるように地面に倒れたふたり。
美咲の身体は震えていた。恐怖と、安堵と、そして涙で。
「……こわかった……」
美咲が絞り出すように呟いたその声に、悠斗はそっと寄り添った。
「当たり前だ。死ぬのは、怖いんだよ……生きていたいから、怖いんだよ」
「……でも、私……」
「お前が何を思ってたとしても、もう一度だけ……俺を、信じてくれ」
美咲は、震える手でそっと悠斗の腕を掴んだ。
その力は弱々しいけれど、確かに生きようとする意志が宿っていた。
人工呼吸器をつけたまま眠る彼女の姿を、悠斗は何度も見守り続けていた。しかし、手術のチャンスは再び失われ、医師たちはもう何もできないかもしれないと言った。
「美咲、俺は…どうすればいいんだ…」
悠斗は手術室の外で、一人、肩を落としていた。
目の前の美咲の命が、次第に手の届かないところに遠ざかっていく気がして、彼はどうしても無力感を拭い去れなかった。
その日の夜、美咲が目を覚ましたとき、彼女の目には普段の明るさはなかった。
無理に笑おうとしても、表情は硬く、目の奥に深い痛みが宿っている。
「悠斗くん…」
「美咲、もう少しだけ頑張って、すぐに新しい治療法を試すから」
「もう…無理だよ、悠斗くん。私、どうしても治らないんだって、わかってる。」
美咲の言葉に、悠斗は胸が締め付けられる思いがした。
「そんなことない。諦めないから、絶対に」
「でも、もう疲れたよ。何をやっても、どうせ治らないって…」
美咲は、目をそらしながら続けた。
「私がいなくなっても、誰も悲しまないよ。悠斗くんだって、私のことをもう忘れて、次に進んだ方がいい…」
その言葉に、悠斗は一瞬息が詰まった。
美咲の心が完全に諦めに飲み込まれつつあることを、彼は痛いほど感じていた。
その晩、美咲は何も言わずに病室を出て、ひとりで病院の屋上へと向かった。
彼女は、心の中で何度も繰り返していた。
「もう、終わりにしたい…もう、誰にも迷惑をかけたくない。」
夜の空気は冷たく、風が強く吹き抜けていた。
病院の屋上。フェンスの先に広がる街の光が、あまりにも遠く感じる。
「……ありがとう。今まで、楽しかったよ」
ぽつりと、誰に聞かせるでもなく呟いた美咲は、フェンスに手をかけた。
力ない体で、必死にそれをよじ登ろうとする。
「さようなら」
足をかけたそのとき――
「美咲っ!!」
鋭く、裂けるような声。扉が開き、風を割って悠斗が飛び出してきた。
「待て!!」と叫んだ瞬間には、すでに美咲の身体はフェンスの向こうへ――
「っ……!!」
足をかけた拍子に、美咲の足が空を切った。
体勢を崩し、バランスを失った美咲が、そのまま重力に引かれて――
ガシッ!!
間一髪。悠斗の手が、美咲の手首を掴んだ。
全体重を片手で支えるその手に、悠斗は歯を食いしばる。
「くっ……! 落ちるな、絶対に……!」
「やだ……っ、こわい……!」
宙にぶら下がる形で、美咲の足がぶらぶらと揺れる。
風が強く吹きつけ、彼女の顔に涙が散る。
「離してよ……! もう、いいから……!」
「ふざけるな!! 絶対に離すもんか!!」
悠斗の叫びが、風を裂いた。
「俺は、何があってもお前を救うって決めたんだ。お前がどんなに諦めても、俺は絶対に諦めない!!」
美咲の目が、大きく見開かれる。
「お前が生きてるだけで、どれだけ嬉しいか、どれだけ救われるか……! それをお前がわからなくても、俺は知ってる!!」
「だから――死ぬなっ!!」
その瞬間、悠斗は全身の力を込めて、美咲の身体を引き上げた。
「うわっ……!」と叫びながら、彼女の体がフェンスの内側へと戻る。
崩れるように地面に倒れたふたり。
美咲の身体は震えていた。恐怖と、安堵と、そして涙で。
「……こわかった……」
美咲が絞り出すように呟いたその声に、悠斗はそっと寄り添った。
「当たり前だ。死ぬのは、怖いんだよ……生きていたいから、怖いんだよ」
「……でも、私……」
「お前が何を思ってたとしても、もう一度だけ……俺を、信じてくれ」
美咲は、震える手でそっと悠斗の腕を掴んだ。
その力は弱々しいけれど、確かに生きようとする意志が宿っていた。