君の鼓動を、もう一度

5.進展と試練

数日後、悠斗は新たな治療法を試すため、手術の準備を進めていた。
　それは、従来の方法ではなく、最新の技術を使用した手術だったが、リスクも大きい。そのリスクを最小限にするために、悠斗は自らの手術を監修し、慎重に進めることを決意した。

　「これしかない。美咲を救えるのは、これだけだ」

　病院内のカンファレンスルームで、悠斗は他の医師たちと手術計画を練り、夜遅くまで話し合いを続けていた。その間、美咲は少しずつ回復していたが、やはりどこか元気が戻ったわけではなかった。




　ある日の午後、美咲が突然、息苦しさを感じて病室で倒れ込んだ。
　すぐに看護師が駆けつけ、悠斗も急いで駆けつけた。

　「美咲！大丈夫か？」

　悠斗の声を聞いた美咲は、必死に手を振って息を吸い込むようにした。

　「大丈夫……だと思うけど……」

　しかし、彼女の顔は青白く、手のひらは冷たく汗ばんでいた。
　急いで検査を行うと、病状が予想より早く進行していることがわかった。

　「……やっぱり、ダメか……」

　美咲は涙をこらえながらつぶやいた。

　「そんなことない。まだ間に合う。必ず治すから」

　悠斗は冷静さを保ちつつも、内心では焦りが募っていた。
　“どうしてこんなことに……美咲にはまだ希望を与えてあげないと…”

　「美咲、心臓に負担をかけないように、少し休んでて」

　悠斗は優しく彼女の肩を支えながら言ったが、その手のひらの震えを感じていた。
　彼はこの瞬間、自分の無力さにどうしようもなく苛立ちを覚えた。



　その晩、悠斗は病院の屋上に立っていた。
　少し冷たい風を感じながら、彼はひとりで夜空を見上げる。

　“本当に、どうすればいいんだ……”

　悠斗は今まで、どんな困難も乗り越えてきた自信があった。しかし、今回だけはどうしてもうまくいかない。
　美咲を救うために必死になりすぎて、少しでも手が届くように、彼女の苦しみを取り除こうとすればするほど、遠く感じてしまう。

　その時、電話が鳴った。
　画面には、美咲からの着信が表示されていた。

　「美咲……」

　悠斗はすぐに電話を取った。

　「悠斗くん……」

　美咲の声は、いつものように明るくはなかったが、それでも強く響いていた。

　「大丈夫か？」

　「うん、少しだけ落ち着いた。ありがとう。悠斗くんが私のために頑張ってくれること、すごく嬉しい」

　「美咲……君は今、どんな気持ちだ？」

　美咲は少し黙った後、静かに答えた。

　「不安。でも、私……もう一度だけ、チャンスを信じてみようと思う。どんなに怖くても、最後まで自分にできることをやりきりたい」

　「……俺もだよ、だから絶対に、君を救う。諦めない」

　美咲の言葉に、悠斗は自分の気持ちを強く感じた。

　「悠斗くん……ありがとう。私、まだ少し怖いけど、あなたがいるから、前を向ける気がする」



　その後、悠斗は新しい手術に向けて動き出した。
　美咲の体調は安定していたが、依然として油断できない状態が続いていた。

　手術前夜、悠斗は病室に向かう途中、再び美咲と静かに目を合わせた。

　「美咲、手術を明日やる。でも……君が怖いなら、無理にやらなくてもいいんだ」

　美咲はゆっくりと、けれども力強く頷いた。

　「もう怖くない。あなたと一緒にいるなら、私は前に進める」

　悠斗はその言葉に、何も言わずに美咲の手を握った。
　二人の間に、強く確かな絆が結ばれたように感じた。