君の鼓動を、もう一度

1.動きだす鼓動

入院してから三日が経った。
 病室の窓から見える桜は、すでに満開を過ぎて、花びらを落としはじめていた。美咲はベッドの上で静かにその様子を眺めていた。

 「……少し落ち着いてきたな。検査結果も安定してる」

 そう言ってカルテを確認する声は、どこまでも冷静で、けれどどこか優しかった。
 美咲はそっと顔を上げる。目の前にいるのは、あの日と同じ、いや、それ以上に頼れる存在になっていた——橘 悠斗。

 「……ありがとう、ございます」

 目を合わせるのが、まだ少し照れくさい。でも、悠斗の視線はいつもまっすぐで、その冷静な目に見つめられると、言葉が詰まりそうになる。

 「……無理をしないこと。定期検診を怠らないこと。それだけは約束してほしい」

 静かな声に混じったわずかな熱に、美咲の胸がちくりと痛んだ。自分の無責任さが、誰かを苦しめたことに、ようやく気づきはじめていた。

 「……あの、悠斗くん。じゃなくて……先生……」

 「……悠斗でいい。俺にとっては、お前は“患者”である前に——」

 そこで言葉が切られる。
 美咲はその続きを聞きたくて、けれど何も言えなくて。沈黙だけが、病室を包んだ。

 そのとき——

「おーい、美咲ーっ!見舞い来たぞ!」

 にぎやかな声とともに、翔太が顔をのぞかせた。手にはコンビニの袋と、なぜか月間バスケゲームの雑誌。

 「やっほー兄貴もいるじゃん、レアだなその並び!」

 「あまり騒ぐな、病院なんだから」

 呆れ顔の悠斗とは対照的に、翔太はにこにこと美咲のそばに駆け寄ってくる。

 「体調どう?きつくない?っていうかちゃんと食べてんの?」

 「あはは、元気だよ……翔太くんが来ると、元気になれる」

 「でしょ?俺、癒し系だからさ」

 おどける翔太と、それを横で見守る悠斗。その光景が、どこか懐かしくて、美咲は思わず笑ってしまう。

 ——また、こうして三人で会える日が来るなんて。
 でもこの時間がいつまで続くのかは、誰にもわからない。

 だからこそ、今はただ、この瞬間を胸に刻んでおきたかった。
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