君の鼓動を、もう一度
 ゴールのテープを切った瞬間、美咲はその場にしゃがみ込んだ。顔は笑っていたけれど、肩は小刻みに震えていて、呼吸が乱れているのが遠目からでも分かった。

 悠斗は人混みをかき分けながら一直線に彼女のもとへ駆け寄った。

 「……美咲!」

 声をかけた瞬間、彼女がこちらを見上げた。その顔にはうっすらと汗と涙が混じっていた。

 「……バレた、か」

 苦笑する彼女の腕を、悠斗は強く掴んだ。

悠斗の怒鳴り声が響いた瞬間、周囲の空気がぴんと張り詰めた。

 「ふざけるな……!」

 その言葉に美咲は一瞬固まった。でもすぐに、苦笑するように目を伏せて呟いた。

 「……わかってるよ。怒られるの、覚悟してたもん」

 「覚悟してた!? そんな軽い気持ちで、自分の命を——!」

 「軽い気持ちなんかじゃない!」

 美咲の声が重なった。いつもの穏やかな彼女のものとは違う、鋭くて痛々しい叫び。

 「悠斗には……何も分からないくせに!元気な体で、何だってできる人に、私の気持ちなんか……!」

 「分からないかもしれない。けど、それでも俺は——」

 「もういい!」

 その言葉を最後に、美咲は走り出した。ふらつく足で、それでも全力で。

 悠斗は一歩踏み出そうとしたが、その場で立ち尽くした。
 彼女の背中が、遠ざかっていく。

 「……美咲……!」
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