君の鼓動を、もう一度
 医療機器の規則的な電子音が、静かなICUに響いていた。

 真っ白なシーツの上、美咲は眠っていた。呼吸器に繋がれた彼女の身体は小さくて、どこか壊れそうで、だけどその胸は確かに上下していた。

 命が、ここにあった。

 ベッドの傍らに座る悠斗は、彼女の手をそっと握っていた。氷のように冷たかった手が、少しずつ体温を取り戻しているのがわかる。

 「……お前さ、ほんと無茶しかしないよな」

 囁くように言って、苦笑する。でもその目は、赤く滲んでいた。

 「あと少し、遅れてたら……」

 その言葉の続きを、彼は飲み込んだ。

 手術を失敗し、絶望に追い詰められて。それでも、もう一度手を伸ばしてくれた彼女の命。

 「ありがとう……生きててくれて……」

 その瞬間、ICUのドアが開いた。

 「兄貴っ!!」

 翔太だった。髪は乱れ、顔はぐしゃぐしゃに濡れていた。駆け寄るなり、美咲の顔を見て、肩を震わせた。

 「ほんとに……死ぬかと思った……っ、ばか、なんで勝手に……!!」

 ベッドの手すりを掴んで、翔太は怒鳴る。でもその声は、涙にかき消されていた。

 「俺……運動会、ちゃんと応援しようって思ってたのに……。兄貴だって……ずっと見ててくれたのに……!」

 「何も言わずに、あんなところで倒れて……!」

 翔太の拳がプルプルと震えたまま、でも彼は殴ることもできず、ただ俯いてしゃくり上げる。

 悠斗は静かに立ち上がり、弟の肩を抱いた。

 「大丈夫だ。……まだ、終わってない」

 翔太が顔を上げる。

 「治るのか……?」

 悠斗は一瞬だけ目を伏せ、それからゆっくりと頷いた。

 「完治は難しい……でも、延命のための手術がある。リスクはあるけど、今の美咲なら——希望はある」

 「彼女を……守りたい。絶対に、もう二度と手を離さない」

 それは医者としての言葉じゃない。男としての——一人の人間の、決意だった。

 翔太は何も言わず、そっと頷いた。
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