君の鼓動を、もう一度
10.いつもと変わらないと思ってた
「……悠斗、コーヒー淹れといたよ。少し薄めだけど」
「ん、ありがとう。最近味のバランス、だいぶ良くなってきたな」
小さなテーブルで、並んで朝食をとる二人。
休日の朝。柔らかい日差しが窓から差し込み、まるで“普通のカップル”のような、落ち着いた空気が流れていた。
美咲はいつもより少しおしゃれをしていた。薄いベージュのワンピースに、揺れるピアス。
「……今日、ゼミの友達とちょっと出かけるの。バスで隣町の美術館行く予定なんだ〜」
「そうか。あんまり無理はしないでな」
「うん。ちゃんとお薬も持ったし、急に疲れたらすぐ帰るって言ってあるから」
悠斗は頷きながらも、どこか落ち着かない様子で彼女を見つめていた。
「……美咲。最近、心臓の調子は?」
「んー……わりと安定してるよ? でも、やっぱりちょっとドキドキしすぎるとキツいかも」
「それ、ちゃんとメモしとけよ。次の検査に役立つ」
「はーい、先生」
冗談まじりに笑う彼女の笑顔は、あまりにも自然で。
――それが、逆に胸を締め付けた。
悠斗は、ふと伸ばしかけた手を止めて、ただ静かに彼女を見送るだけだった。
「行ってきます!」
「気をつけて。連絡、絶対入れろよ」
玄関の扉が閉まったあと、しばらくの静寂が続いた。
悠斗はコーヒーを口に運びながら、どこかひっかかるような違和感を振り払うように、深く息を吐いた。