君の鼓動を、もう一度
担架が急いで運ばれていくその途中、
悠斗はたまらず駆け寄った。

モニターの心拍が不安定に揺れている。
血に染まった美咲の顔は、さっきよりもさらに青白い。
今にも、消えてしまいそうな命。

「……美咲……っ」

誰よりも、彼女の命の儚さを知っている医者として。
でも今は、それ以上に――ひとりの男として。

悠斗は、美咲の手を強く握った。

「……橘先生、オペ室に!」

「……わかってる。……でも、少しだけ……少しだけ待ってくれ」

血にまみれたその手を、自分の手で包むようにして、そっと額を寄せる。

「聞こえるか……美咲。……俺だよ、悠斗だ」


「……せん……せい……?」

声というにはあまりにかすれた、吐息のような声。
それでも、彼女の目はしっかりと悠斗を捉えていた。

「俺だよ……俺がここにいる」

震える声でそう言うと、美咲はほんのわずかに口角を上げる。
それは、笑っていた。

「……最後に……会えて、……よかった……」

「やめろ……“最後”なんて言うな」

悠斗はその言葉に、顔を歪める。

「……俺、ずっと……先生に……ありがとうって……言いたかっ……た……の」


「なんで……なんでお前が……っ。……もう、無茶すんなって言っただろ……」

胸の奥から、怒りとも悔しさとも言えない感情がこみ上げる。

「助ける……絶対に、助けるから。だから――死ぬな」

その目に滲んだのは、医師としての冷静さではなく、
誰よりも彼女を想う男の、祈りにも似た涙だった。

美咲の手が、弱く――けれど確かに、彼の手を握り返した。

「……!」

その小さな反応に、悠斗は目を見開く。

「オペ室、行くぞ。止血優先、心肺サポート準備。チーム全員、最善を尽くす」

彼の声は、もう震えていなかった。

強く、静かに、そして確かに。

彼女を生かすための戦いが、いま始まる――。
< 41 / 43 >

この作品をシェア

pagetop