君の鼓動を、もう一度
3.届かない術式
検査室の白い光の中で、美咲は目を閉じていた。
機械音が規則正しく響き、看護師のやわらかい声が時折耳に届く。
“もしこれで、手術ができるって言われたら——”
そう願う気持ちと、裏切られるかもしれない恐怖が、胸の奥でせめぎ合っていた。
一方、検査結果を見た悠斗は、無意識に拳を握っていた。
「……予想以上に進行している……。こんなにも……」
モニターに映る数値と画像が、現実を突きつけてくる。
悠斗が考えていた術式——先天性疾患に特化した新しいアプローチは、今の美咲の状態では適応できない。
カンファレンスでも、上司の医師が言った。
「残念だが、橘先生。このケースに外科的介入はリスクが高すぎる。
選択肢は、内科的管理と緩和的な方針だろう」
「……いや、待ってください。まだ他の術式も検討できるはずです」
「現実を見ろ。手術が“可能”なことと、“成功する”ことは違う」
苦しい言葉だった。
それでも悠斗は、うなずくことができなかった。
数日後。
病室で検査結果を待つ美咲に、悠斗は静かに言った。
「……思ってたより、状態が進んでた。正直、今の段階では……前に考えてた手術法は、適応できないかもしれない」
「……そっか」
美咲の声は思ったより静かだった。
ほんの少しだけ、目を伏せると微笑んだ。
「ごめんね、期待させちゃって」
「いや、まだ結論は出てない。もう少し検討させてくれ」
そう言ったものの、悠斗の声にはいつもの自信がなかった。
「……わかった。ありがとう、ちゃんと向き合ってくれて。……でも、もういいよ」
美咲は、無理に笑った。
明るく、軽く、それが本心じゃないことを悟られないように。
「最初から分かってたし。私の心臓、そんなに甘くないって」
悠斗は何かを言いかけたが、美咲はそれを遮るようにそっと視線を外した。
「だからさ、これ以上は……期待したくないの。ね?」
機械音が規則正しく響き、看護師のやわらかい声が時折耳に届く。
“もしこれで、手術ができるって言われたら——”
そう願う気持ちと、裏切られるかもしれない恐怖が、胸の奥でせめぎ合っていた。
一方、検査結果を見た悠斗は、無意識に拳を握っていた。
「……予想以上に進行している……。こんなにも……」
モニターに映る数値と画像が、現実を突きつけてくる。
悠斗が考えていた術式——先天性疾患に特化した新しいアプローチは、今の美咲の状態では適応できない。
カンファレンスでも、上司の医師が言った。
「残念だが、橘先生。このケースに外科的介入はリスクが高すぎる。
選択肢は、内科的管理と緩和的な方針だろう」
「……いや、待ってください。まだ他の術式も検討できるはずです」
「現実を見ろ。手術が“可能”なことと、“成功する”ことは違う」
苦しい言葉だった。
それでも悠斗は、うなずくことができなかった。
数日後。
病室で検査結果を待つ美咲に、悠斗は静かに言った。
「……思ってたより、状態が進んでた。正直、今の段階では……前に考えてた手術法は、適応できないかもしれない」
「……そっか」
美咲の声は思ったより静かだった。
ほんの少しだけ、目を伏せると微笑んだ。
「ごめんね、期待させちゃって」
「いや、まだ結論は出てない。もう少し検討させてくれ」
そう言ったものの、悠斗の声にはいつもの自信がなかった。
「……わかった。ありがとう、ちゃんと向き合ってくれて。……でも、もういいよ」
美咲は、無理に笑った。
明るく、軽く、それが本心じゃないことを悟られないように。
「最初から分かってたし。私の心臓、そんなに甘くないって」
悠斗は何かを言いかけたが、美咲はそれを遮るようにそっと視線を外した。
「だからさ、これ以上は……期待したくないの。ね?」