白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
 昨日とはまた違う正装を纏ったアルバートを見るなりプリムローズはシーツの上に指をつく。
 そしてシーツに額を押しつけるよう深々と頭を下げた。

 気を失い、朝まで眠ってしまったらしい。
 新妻にあるまじき失態だ。
 今もまたアルバートに気を遣わせて、手ずからカーテンを引かせてしまった。
 これでは本当に愛され新妻ポイントをどんどん失い、白い結婚への道一直線になりかねない。閨での作法の勉強以前の問題だ。

「姫、顔を上げて下さい。今後はあのような行動は控えていただければ、それで十分ですので……」
「もちろんです」

 許しの言葉を受け、顔を上げる。
 いくら傷ついたからと言って、人が隠しているものを暴こうとするのは決して褒められた行為ではない。ましてや、相手には隠さなければならない理由があったのだからなおさらだ。

 キノコを隠していた理由は何だったのか、気にならないと言えば嘘になる。
 あくまでもプリムローズの常識内で考えると、賓客への挨拶が深夜近くまで及ぶことを想定して非常食として所持していた、という可能性もあった。
 だけど、どうにもしっくり来ない。

(信じられないくらい毒々しい見た目で、まるで毒キノコみたいだったもの。食べたらきっとお腹を壊してしまうわ)

 非常食ならパンで良い。それが何故キノコを。
 でも正面から尋ねたところで教えてもらえるとは思えない。

 一人で考えたって答えが分かるはずもなく、けれど天啓のようにある仮説が閃いた。
 同時にますます自分のしでかしてしまったことの重大さに居たたまれなくなる。ちゃんと顔を見て謝罪しなければいけないのに、顔を上げられない。困惑が窺える形の良い口元を見るのが精一杯だった。
 伝えるべき言葉を探りながら、ゆっくりと口を開く。

「わたくし、存じ上げなかったこととは言え何とお詫びしたら良いか……」

 色や形が毒キノコみたいだった。
 つまり、あれはキノコに似てはいるけれどアルバートの身体に害をなすものだ。
 そして人の身体に害をなすと言えば、考えられるのは一つしかない。
 息を大きく吸い込んで顔を上げた。

「アルバート様が毒キノコ病……ええと、わたくしには未知のものである病に侵されていらっしゃるなんて、本当に存じ上げなかったのです」
「毒、キノコ病……?」

 アルバートは放心したような様子で小さく反芻する。
 また失敗してしまった。デリケートな問題なのだからもっと違う言葉で伝えた方が良かったかもしれない。
 自分の至らなさに落ち込んでいると、やがてアルバートは大きく頷いた。

「そ、そうなのです。実は私は毒キノコ病に罹っているので、姫とは閨を共にできないのです。万が一、移してしまっては取り返しのつかないことになりますから」
「なんてお(いたわ)しいことでしょう……」

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