白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】

初恋の姫

「昨夜はどうだったんだ?」

 プリムローズとの朝食を終えて執務室に向かうと、すでに来ていたフレデリックが明るく声をかけた。
 補佐を務めてくれる彼は母方の従兄であり、いちばん付き合いが長く親しい友人でもある。――そのせいで、こうして何の躊躇いもなくプライベートにも踏み込んで来たりもするのだが。

 派手な造りで人目を引くその顔は、先程別れたプリムローズが恥ずかし気にはにかんだ楚々とした笑顔とは大違いだ。
 おとなしく公休を一週間ほど取れば良かったと後悔したが、彼の第一声は「昨夜」から「一週間」に変化する程度だろう。そう断言できてしまう付き合いの長さと気安さは、ありがたくも問題だった。

「いつもより寝不足っぽい目をしてるし、そうかそうか」

 当のフレデリックはアルバートの顔をのぞき込み、うんうんと何度も頷く。
 一体何に対して「そうかそうか」なのか、簡単に察しがついて聞くまでもない。
 アルバートは冷ややかな目を向け、短く言い放った。

「勝手に下世話な想像をしないでくれないか」
「別に何も言ってないだろう。昨日結婚したばかりだもんな」

 フレデリックは全く堪えた様子もない。
 それどころか楽しげに目を細め、身を乗り出してまで問いかける。

「で?」
「で、とは」
「で、昨夜はどうだったんだ?」

 アルバートは答える代わりにわざと大きくため息を吐いた。

「どうだったもこうだったも、別に」
「えっ、でも昨夜は初夜だっ」
「下世話な想像をするなと言ったばかりだが」
「下世話って」

 言葉を遮り続けるアルバートにさしものフレデリックも押されたように口ごもった。
 社交界で浮き名を欲しいままにするプレイボーイの彼が、対照的に浮いた噂の一つも全くないアルバートの結婚を純粋に喜んでくれているのは知っている。
 だが、アルバートの結婚は祝福を受けるに相応しいものではない。
 一年だけの限られた結婚だ。

「今まで何もなかったくらいだし、花嫁にも全くそそられなかったとか?」

 気心が知れているからフレデリックは改めて追及して来る。
 これは考えを人に打ち明ける良い機会なのかもしれない。
 そして味方として真っ先に引き入れたいのは誰なのかを思えば、フレデリック以外にいないのも事実だった。

「――そんなことはない」

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