白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
アルバートは戻りが遅くなると聞いている。
だから楽しくておいしかった朝食とは打って変わって、豪華だけれど寂しくて味気無ささえ感じてしまった夕食を一人で摂った。それからイレーヌと少しお喋りをして、湯浴みを済ませてベッドに潜り込む。
今夜は例の下着もどきではなく、純白の絹のローブを身に纏った。
できれば可愛くて大胆なデザインの下着もどきを他にも欲しいところだけれど、どこで手に入れたら良いのかが分からない。一年限りの白い結婚だなんて事態を防ぐ為にも、あともう三着ほど送ってもらうことはできないか、デイジーにお願いしてみようと思った。
手持ち無沙汰に本を読み、でも内容は全然頭に入って来ない。
(アルバート様は何時頃お帰りになられるのかしら)
待ち侘びてぼんやりとして、とうとう眠りかけた時、続き部屋のドアが開く音がした。それからアルバートのものらしき声が聞こえる。帰って来たのだ。
プリムローズは跳ね起きると、昼間準備したものを手に寝室の奥にあるバスルームに向かった。
昨夜とは違う意味でどきどきする。
上手く、やらなくては。
「――姫?」
ベッドにいないプリムローズを探してくれているのだろう。
「わたくしならバスルームにおりますわ、アルバート様」
プリムローズは嬉しさを噛みしめ、バスルームからアルバートを呼んだ。
ところが待てと暮らせどアルバートがやって来る気配はない。湯浴みをしている最中だと思われたのだ。プリムローズは慌てて言葉をつけ足した。
「ちゃんと服は着ております。どうぞこちらにいらして下さい」
まだ少しの間があって、根負けしたのかアルバートがようやくやって来た。言葉通り、ローブを着ていることを見て取って安心したような顔をする。
アルバートがバスルームに足を踏み入れたのを確認すると、プリムローズは背中側に隠し持っていたものの一つを手探りで取った。
「アルバート様、少しだけ身を屈めてはいただけませんか」
「身を?」
不審そうにしながらも言う通りにしてくれる。
そんなところも、やっぱり好きだ。
(わたくしが一刻でも早く、アルバート様をお救いして差し上げなくては)
改めて使命感にも似た強い想いに駆られ、手にしたそれをアルバートの頭上にかざす。
ニンニクを輪っか状にした、いわばニンニクの首飾りだ。イレーヌに頼んで厨房から何個かもらって来てもらったものを、プリムローズ自ら糸で繋ぎ合わせたのである。――それを見守るイレーヌの目は、心なしか冷たかったけれど。
服の上からアルバートにかけようとするも、長さが不十分で首飾りと言うよりは冠に近い。顔を斜めに横切るニンニクにアルバートが気を取られている間に、もう一つ頼んでおいた紙袋を引き寄せる。
中には塩がぎっしりと詰められていた。
湯浴みした後だからか、水気を含んでしまってぼったりと固まるそれを掴み、アルバートの〝毒キノコ〟目がけて投げつける。
本当は直接その場所にぶつけたかったけれど、もう勝手に衣服を脱がせたりしないと淑女が取りつけるには非常に不名誉な約束をした。
だから妥協して、服を着たままでも効果があるように少し頑張った。
プリムローズの腕力なんてたかが知れている。
けれど比較的至近距離であったことと、塩がそれなりの量だったことが噛み合い、思っていた以上に重たげな音を立て、ぶつけた側のプリムローズが悲鳴をあげた。
「ご、ごめんなさい……!」
「いえ……。それで今度は何を企んでいらっしゃるのです?」
狙い通りの場所には当たらなかったらしい。
それが良かったのか良くなかったのか、アルバートは左の脇腹辺りを押さえて微妙に眉を寄せている。全く痛くなかったというわけではないようだ。申し訳ない気持ちが再び湧いて頭を下げる。
それにしても、イレーヌと同じことを言われてしまった。
だから楽しくておいしかった朝食とは打って変わって、豪華だけれど寂しくて味気無ささえ感じてしまった夕食を一人で摂った。それからイレーヌと少しお喋りをして、湯浴みを済ませてベッドに潜り込む。
今夜は例の下着もどきではなく、純白の絹のローブを身に纏った。
できれば可愛くて大胆なデザインの下着もどきを他にも欲しいところだけれど、どこで手に入れたら良いのかが分からない。一年限りの白い結婚だなんて事態を防ぐ為にも、あともう三着ほど送ってもらうことはできないか、デイジーにお願いしてみようと思った。
手持ち無沙汰に本を読み、でも内容は全然頭に入って来ない。
(アルバート様は何時頃お帰りになられるのかしら)
待ち侘びてぼんやりとして、とうとう眠りかけた時、続き部屋のドアが開く音がした。それからアルバートのものらしき声が聞こえる。帰って来たのだ。
プリムローズは跳ね起きると、昼間準備したものを手に寝室の奥にあるバスルームに向かった。
昨夜とは違う意味でどきどきする。
上手く、やらなくては。
「――姫?」
ベッドにいないプリムローズを探してくれているのだろう。
「わたくしならバスルームにおりますわ、アルバート様」
プリムローズは嬉しさを噛みしめ、バスルームからアルバートを呼んだ。
ところが待てと暮らせどアルバートがやって来る気配はない。湯浴みをしている最中だと思われたのだ。プリムローズは慌てて言葉をつけ足した。
「ちゃんと服は着ております。どうぞこちらにいらして下さい」
まだ少しの間があって、根負けしたのかアルバートがようやくやって来た。言葉通り、ローブを着ていることを見て取って安心したような顔をする。
アルバートがバスルームに足を踏み入れたのを確認すると、プリムローズは背中側に隠し持っていたものの一つを手探りで取った。
「アルバート様、少しだけ身を屈めてはいただけませんか」
「身を?」
不審そうにしながらも言う通りにしてくれる。
そんなところも、やっぱり好きだ。
(わたくしが一刻でも早く、アルバート様をお救いして差し上げなくては)
改めて使命感にも似た強い想いに駆られ、手にしたそれをアルバートの頭上にかざす。
ニンニクを輪っか状にした、いわばニンニクの首飾りだ。イレーヌに頼んで厨房から何個かもらって来てもらったものを、プリムローズ自ら糸で繋ぎ合わせたのである。――それを見守るイレーヌの目は、心なしか冷たかったけれど。
服の上からアルバートにかけようとするも、長さが不十分で首飾りと言うよりは冠に近い。顔を斜めに横切るニンニクにアルバートが気を取られている間に、もう一つ頼んでおいた紙袋を引き寄せる。
中には塩がぎっしりと詰められていた。
湯浴みした後だからか、水気を含んでしまってぼったりと固まるそれを掴み、アルバートの〝毒キノコ〟目がけて投げつける。
本当は直接その場所にぶつけたかったけれど、もう勝手に衣服を脱がせたりしないと淑女が取りつけるには非常に不名誉な約束をした。
だから妥協して、服を着たままでも効果があるように少し頑張った。
プリムローズの腕力なんてたかが知れている。
けれど比較的至近距離であったことと、塩がそれなりの量だったことが噛み合い、思っていた以上に重たげな音を立て、ぶつけた側のプリムローズが悲鳴をあげた。
「ご、ごめんなさい……!」
「いえ……。それで今度は何を企んでいらっしゃるのです?」
狙い通りの場所には当たらなかったらしい。
それが良かったのか良くなかったのか、アルバートは左の脇腹辺りを押さえて微妙に眉を寄せている。全く痛くなかったというわけではないようだ。申し訳ない気持ちが再び湧いて頭を下げる。
それにしても、イレーヌと同じことを言われてしまった。