白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
「あ、あの……アルバート様に取りついた毒キノコの悪い妖精を追い払おうと……」
「だからニンニクと塩を?」
「はい。どちらも魔除けに効果があると昼間、本で読みましたので」

 ニンニクと塩で大ダメージを受けた悪いキノコの妖精が悶え苦しみ、最後の手段として自らの回復の為にアルバートの体力を奪おうとするのではないかと予想していた。
 けれど、少なくとも元気そうだ。アルバートが元気なのは良いことだけれど、内面で激しく戦っているような様子もまるでない。弱ったところに追い打ちをかけるつもりでいたのにあてが外れてしまった。

「これで頭からオリーブオイルをかけられていたら、私は我が国の郷土料理のようですね」
「あの麺料理の! わたくし、シンプルだけどとてもおいしいあのお料理大好きです」

 言われてみたら確かに、イルダリアには小麦から作られた細い麺を塩茹でし、オリーブオイルとニンニクで炒めた料理がある。
 イレーヌはあまり好きではないようだけれど、プリムローズは嘘偽りなく好きな料理だ。良質な小麦の風味とオリーブの豊かな香り、そこにニンニクの濃厚な味と赤いスパイスがピリッと辛くておいしいと思う。

「でもアルバート様、あのお料理には真っ赤な辛いスパイスも使われていますわ。わたくし、オイルだけでなくそれもご用意しておりません」
「そうですね」

 多分そういう問題ではないし、言い草に呆れただけなのだろうけれど、アルバートが表情を少し綻ばせた。
 笑ってくれた。
 嬉しくなってプリムローズは心からの笑みで応える。するとまた顔を背けられてしまった。あからさまな態度は、やっぱり悲しい。

「このまま湯浴みしてしまいますから、姫は寝室にお戻り下さい」
「アルバート様がご自身で毒キノコの妖精を追い払えるよう、お塩は置いておきますか?」
「姫の優しいお気持ちはとてもありがたいですが、すでに試して効果がないと判明しておりますので」
「あ……。そう……そうですよね」

 すでに試したことがある。
 もっともな話だ。
 塩塗れの手を洗い流してリネンで拭う。
 そうしてアルバートから受け取ったニンニクの首飾りと、底が破れて中身が溢れたりしないように気を遣いながら塩の詰まった紙袋とを別のリネンにしっかりと包み、バスルームを出ようとする。

「――姫」

 あまりにも落ち込んだ様子に気が咎めたのか、アルバートが声をかけた。
 ゆっくりと振り返ると、もうのぼせてしまったかのように頬をわずかに上気させてアルバートが口を開く。

「明日の晩は早めに帰って来られます。姫が良かったら――麺料理を用意させます。だから夕食も一緒に摂りましょう」
「は、はい! ぜひご一緒したいです」

 夕食も、と言った。
 明日は朝食だけでなく夕食も一緒にできるのだ。
 先程までの沈んだ気持ちはあっという間に影も形もなくなり、明日が待ち遠しくてたまらなくなる。
 その夜はアルバートと一緒に麺料理をたくさん食べる夢を見て、こんなにニンニクを食べてしまったら口づけができないと思った。

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