白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
良い企み
「今日の麵料理は……チーズのとても良い匂いがします」
「茹でたての麺にチーズと卵黄を手早く混ぜて、荒く挽いた黒胡椒をかけたものです。女性や子供に特に人気がありますね」
「それなら、わたくしもきっと好きになりますわ」
ニンニクと辛いスパイスの効いた麺料理を一緒に食べてからというもの、アルバートの帰りが早い日は他にも色々な麺料理が出て来るようになった。
そして広く食されるようになるまでの経緯や食材にまつわる話とか、色々な話を聞かせてくれるのだ。
「イルダリアは麺料理の種類が本当にたくさんありますのね」
収穫した小麦でパンを作ることの多いフィラグランテに対し、イルダリアでは麺を作る。
肉や魚介で作った様々なソースが良く絡むよう、ソースごとに大きさや形を変えた麺料理は平民の食卓に毎日のように並ぶという。
プリムローズもイルダリアを訪れた時はどんなものが食べられるのか、いつも密かに楽しみにしていた。
豪華な宮廷料理も良いけれど、平民でも気軽に食べられる料理も好きだ。人々が普段どんな暮らしをしているのか分かるような気がする。アルバートとたくさんお喋りができるうえ、食を通してイルダリアについての知識が深まり、話の面白さに引き込まれて気がつけば眠ってしまうことも少なくはなかった。
「ずっと気になっているのですけれど、どうしてイルダリアでは小麦をパンではなく麺にするのですか?」
「ああ、それはイルダリアがとても空気の乾燥した土地だからです」
イルダリアの空気が乾燥していることは結婚式の後、初夜の準備の最中に侍女たちが言っていた。あの時のやりとりを思い返しながら熱心に聞いているとアルバートはさらに説明を続ける。
――そう。アルバートはベッドの中で、物語を読み聞かせるように話をする。
夫婦の営みで愛を深めるどころではなく、イルダリアの麺料理への造詣が深まるばかりだった。
「私と姫がこうして食べている麺はその日作られたものですが、小麦の取れない冬は乾燥させて保存した麺になります。市井では乾燥させた麺が安価なこともあり主食として人気ですね」
「まあ、そうなんですの。乾燥させた麺は何か味に違いなどあるのですか?」
「味はほとんど変わりませんが、食感には違いがあります。どちらが好きかは好みの問題です。もっとも――貴族たちにしてみたら、乾燥した麺は市井の食べ物という印象が根強いものですが」
「殿下も、そう思っていらっしゃるの?」
尋ねるとアルバートは考え込むようなそぶりを見せ、やがて柔らかに微笑んだ。
「乾燥させた麺にたっぷりのミートソースを絡めて食べるのも、それはそれでおいしい料理だと思います」
「わたくしも、乾燥させた麺も食べてみたいです」
ふいに向けられた笑顔に胸の高鳴りが収まらない。
クッションを抱え込み、プリムローズは必死に気持ちを落ち着けながら会話を続けた。
「では姫の口に合うかは分かりませんが、今度、食事にご用意しましょう」
「楽しみです」
でも少しずつ心も繋がり合おうとしている。
この時間は、嫌いではなかった。
□■□■□■
「茹でたての麺にチーズと卵黄を手早く混ぜて、荒く挽いた黒胡椒をかけたものです。女性や子供に特に人気がありますね」
「それなら、わたくしもきっと好きになりますわ」
ニンニクと辛いスパイスの効いた麺料理を一緒に食べてからというもの、アルバートの帰りが早い日は他にも色々な麺料理が出て来るようになった。
そして広く食されるようになるまでの経緯や食材にまつわる話とか、色々な話を聞かせてくれるのだ。
「イルダリアは麺料理の種類が本当にたくさんありますのね」
収穫した小麦でパンを作ることの多いフィラグランテに対し、イルダリアでは麺を作る。
肉や魚介で作った様々なソースが良く絡むよう、ソースごとに大きさや形を変えた麺料理は平民の食卓に毎日のように並ぶという。
プリムローズもイルダリアを訪れた時はどんなものが食べられるのか、いつも密かに楽しみにしていた。
豪華な宮廷料理も良いけれど、平民でも気軽に食べられる料理も好きだ。人々が普段どんな暮らしをしているのか分かるような気がする。アルバートとたくさんお喋りができるうえ、食を通してイルダリアについての知識が深まり、話の面白さに引き込まれて気がつけば眠ってしまうことも少なくはなかった。
「ずっと気になっているのですけれど、どうしてイルダリアでは小麦をパンではなく麺にするのですか?」
「ああ、それはイルダリアがとても空気の乾燥した土地だからです」
イルダリアの空気が乾燥していることは結婚式の後、初夜の準備の最中に侍女たちが言っていた。あの時のやりとりを思い返しながら熱心に聞いているとアルバートはさらに説明を続ける。
――そう。アルバートはベッドの中で、物語を読み聞かせるように話をする。
夫婦の営みで愛を深めるどころではなく、イルダリアの麺料理への造詣が深まるばかりだった。
「私と姫がこうして食べている麺はその日作られたものですが、小麦の取れない冬は乾燥させて保存した麺になります。市井では乾燥させた麺が安価なこともあり主食として人気ですね」
「まあ、そうなんですの。乾燥させた麺は何か味に違いなどあるのですか?」
「味はほとんど変わりませんが、食感には違いがあります。どちらが好きかは好みの問題です。もっとも――貴族たちにしてみたら、乾燥した麺は市井の食べ物という印象が根強いものですが」
「殿下も、そう思っていらっしゃるの?」
尋ねるとアルバートは考え込むようなそぶりを見せ、やがて柔らかに微笑んだ。
「乾燥させた麺にたっぷりのミートソースを絡めて食べるのも、それはそれでおいしい料理だと思います」
「わたくしも、乾燥させた麺も食べてみたいです」
ふいに向けられた笑顔に胸の高鳴りが収まらない。
クッションを抱え込み、プリムローズは必死に気持ちを落ち着けながら会話を続けた。
「では姫の口に合うかは分かりませんが、今度、食事にご用意しましょう」
「楽しみです」
でも少しずつ心も繋がり合おうとしている。
この時間は、嫌いではなかった。
□■□■□■