白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
公務から戻ったアルバートと夕食を摂りながら話を切り出すと、アルバートは良い顔をしなかった。
予想通りの反応ではある。それでもプリムローズの心をほんの少しだけ落ち込ませた。
「お仕事の邪魔にならないよう精一杯努めますが、わたくしがいては厨房で働く方々の邪魔になってしまうと思います。それを承知のうえで、一度だけで良いのです。どうかご許可を下さい」
熱意が通じたのか、せめて一度くらいわがままを聞いても良いと考えたのか。
かくして休日のお昼前、プリムローズはアルバートと共に厨房へ向かった。
任された手順はガラスボウルの中でオリーブオイルやトマト、香草を麺と軽く混ぜてからお皿に盛りつけることだけだ。
さすがに王太子妃たっての希望でも――否、王太子妃だからこそと言うべきか。野菜を切ったり炒めたりするなどの料理らしい工程を任されることはなかった。
とは言え初めての経験だ。ましてや今日の昼食に使われている麺は、普段食べているものとは比べ物にならないほど細い。ちょっと力を入れすぎただけで短く切れてしまいそうになる。
イルダリアでは〝天使の髪〟と呼ばれているらしく、小麦の色と相俟った名称に納得が行った。
「今日は幸いにして天気も良いですから、ガーデンテラスで昼食にしましょう」
「はい、アルバート様」
二人で庭園の花を眺めながらテラスに行き、テーブルに着席する。
いつものように並べられて行く数々のお皿の中、いつもとあきらかに違うものがあった。
綺麗に盛りつけたつもりでも、手慣れたシェフたちの仕事とはやっぱり全然違う。
だけど自分の手でやり遂げたのだ。誇らしい気持ちが胸を満たした。
そして初めて目にする極細の麺は見た目通りとても繊細で、上質なオイルの風味とトマトの酸味が主な味だ。細いが為に喉越しも良く、さっぱりとして食べやすかった。
「おいしい……!」
プリムローズは頬を綻ばせ、正面に座るアルバートの様子をさりげなく窺う。
盛りつけが良くなくたって味に変わりはない。
でも、プリムローズが手をくわえたものをアルバートが食べている。
そう思うと幸せな気持ちでいっぱいになった。
「あの、アルバート様はいかがですか」
思い切って感想を尋ねてみるとアルバートは目を合わせて柔らかく微笑んだ。
「そうですね。今日の昼食も普段と変わらずおいしいと思います」
「それなら良かったです」
食事が終わると、デザートには湯せんにかけながら混ぜ合わせた卵と砂糖と生クリームにバニラの風味をつけて冷やし固め、ブルーベリーの果実入りのソースをたっぷりとかけたものが供された。
イルダリアで馴染みの深いお菓子で、ほのかに甘く優しい口当たりはプリムローズも大好きだった。
「姫がお気に召して下さっているようですし、頑張ったご褒美です」
「わたくしがしたことはただ混ぜただけですのに、頑張っただなんて……」
プリムローズの好きなデザートをアルバートがわざわざ手配してくれた。
嬉しくて、その優しさをますます好きになる。逆に泣いてしまいそうなのを、なめらかなデザートと共に飲み込んだ。
そうして絶対に一年だけの白い結婚で帰ったりしないと、プリムローズは改めて心に固く誓った。
予想通りの反応ではある。それでもプリムローズの心をほんの少しだけ落ち込ませた。
「お仕事の邪魔にならないよう精一杯努めますが、わたくしがいては厨房で働く方々の邪魔になってしまうと思います。それを承知のうえで、一度だけで良いのです。どうかご許可を下さい」
熱意が通じたのか、せめて一度くらいわがままを聞いても良いと考えたのか。
かくして休日のお昼前、プリムローズはアルバートと共に厨房へ向かった。
任された手順はガラスボウルの中でオリーブオイルやトマト、香草を麺と軽く混ぜてからお皿に盛りつけることだけだ。
さすがに王太子妃たっての希望でも――否、王太子妃だからこそと言うべきか。野菜を切ったり炒めたりするなどの料理らしい工程を任されることはなかった。
とは言え初めての経験だ。ましてや今日の昼食に使われている麺は、普段食べているものとは比べ物にならないほど細い。ちょっと力を入れすぎただけで短く切れてしまいそうになる。
イルダリアでは〝天使の髪〟と呼ばれているらしく、小麦の色と相俟った名称に納得が行った。
「今日は幸いにして天気も良いですから、ガーデンテラスで昼食にしましょう」
「はい、アルバート様」
二人で庭園の花を眺めながらテラスに行き、テーブルに着席する。
いつものように並べられて行く数々のお皿の中、いつもとあきらかに違うものがあった。
綺麗に盛りつけたつもりでも、手慣れたシェフたちの仕事とはやっぱり全然違う。
だけど自分の手でやり遂げたのだ。誇らしい気持ちが胸を満たした。
そして初めて目にする極細の麺は見た目通りとても繊細で、上質なオイルの風味とトマトの酸味が主な味だ。細いが為に喉越しも良く、さっぱりとして食べやすかった。
「おいしい……!」
プリムローズは頬を綻ばせ、正面に座るアルバートの様子をさりげなく窺う。
盛りつけが良くなくたって味に変わりはない。
でも、プリムローズが手をくわえたものをアルバートが食べている。
そう思うと幸せな気持ちでいっぱいになった。
「あの、アルバート様はいかがですか」
思い切って感想を尋ねてみるとアルバートは目を合わせて柔らかく微笑んだ。
「そうですね。今日の昼食も普段と変わらずおいしいと思います」
「それなら良かったです」
食事が終わると、デザートには湯せんにかけながら混ぜ合わせた卵と砂糖と生クリームにバニラの風味をつけて冷やし固め、ブルーベリーの果実入りのソースをたっぷりとかけたものが供された。
イルダリアで馴染みの深いお菓子で、ほのかに甘く優しい口当たりはプリムローズも大好きだった。
「姫がお気に召して下さっているようですし、頑張ったご褒美です」
「わたくしがしたことはただ混ぜただけですのに、頑張っただなんて……」
プリムローズの好きなデザートをアルバートがわざわざ手配してくれた。
嬉しくて、その優しさをますます好きになる。逆に泣いてしまいそうなのを、なめらかなデザートと共に飲み込んだ。
そうして絶対に一年だけの白い結婚で帰ったりしないと、プリムローズは改めて心に固く誓った。