白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
「主の言うことをよく聞く、良い侍女だね」
「恐れ入ります」
「で、本題なんだけど」

 イレーヌが去った後もワンクッション置き、まだ内緒話を続ける。

「俺が男の喜ばせ方を手ほどきしてあげようか?」
「それはぜひとも、ご教授下さい!」

 せっかくフレデリックが気を遣ってくれたというのに、プリムローズは思わず大きな声をあげて身を乗り出した。
 アルバート本人には聞けない、かと言って相談できる異性がいるはずもない。
 それを教えてくれるなんて願ったり叶ったりだ。
 とは言え淑女に相応しくない行動であり、おとなしく座り直して取り繕うように小さく咳払いをする。

「殿方向けの官能小説ではちっとも参考になりませんし、かと言って殿方向けの教則本は買えなくて困っていたのです」

 さしものフレデリックもプリムローズの勢いに押されたように身を引き、けれどすぐににこやかに笑った。

「うんうん。プリムローズちゃんも早くアルバートの役に立ちたいだろうし、身体で覚えたら良いんじゃないかな」
「身体で、ですか?」
「そう。身体で」

 意味深な表情で頷く。
 そして本当に何でもないことを何でもなく尋ねる。

「プリムローズちゃんはキノコは好き?」
「特に好きというわけではありませんが、嫌いではないです」

 アルバートの身体に巣食う、あの毒々しいものは怖いけれど。
 内心でこっそりと付け足すと、フレデリックはさらにニヤリと笑った。悪意はないのだろうけれど、良くない笑みだ。だけどプリムローズはアルバートの役に立ちたいと必死で、彼が裏で何を思っているのかなんて全く考えが行かなかった。

「じゃあ一度、キノコだと思って食べてみたら?」
「ど、どうしてそのことをご存知なのですか?」

 プリムローズは目を見開く。
 アルバートは自身を苛む〝毒キノコ病〟のことは誰にも話していないと言っていた。
 でも、仲の良い友人でもあるフレデリックは別なのだろうか。
 それでも病で苦しんでいるのはアルバートだ。
 彼のいない場所で、彼が隠しているものを知っているのかどうか、勝手に確認するのは躊躇(ためら)われる。

「一般的だと思うけど」
「えっ、そうなのですか?」

 その答えはプリムローズに大きな衝撃を与えた。

 アルバートの様子では非常に珍しい病気だとしか思えなかった。実際、プリムローズも聞いたことがない。
 でも本当に毒キノコなら、寄生されているアルバートが大変なことになってしまう。
 だから見た目が見た目なだけで、あのキノコに毒性なんてないのかもしれない。

 一般的に、毒キノコじゃなければキノコは食べられる。
 そんな簡単なことで良かったのだ。

「ありがとうございます、やってみます!」
「いいよいいよ、お礼とか。可愛いお嫁さんのプリムローズちゃんが食べてくれるなら、アルバートもすごく喜ぶと思うよ。でも、もし上手くできなかったら――」

 そうしてプリムローズには天啓にも等しい助言をくれたフレデリックは、午後の職務があるからと戻って行った。

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