白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
夜、いつものように先に湯浴みを終えたプリムローズはシーツに包まらずにアルバートを待っていた。
シーツに入って眠る体勢を取るから、料理の話に夢中になって眠ってしまうのだ。やはり眠らない為には、何があっても眠らないのだという気概を見せなければならない。
「姫?」
バスルームから戻ったアルバートが怪訝そうな顔をする。
多分きっと、また良からぬことを企んでいると思われているに違いない。でも今回は良いことだ。何しろ、治療なのだから。
「アルバート様のご病気の治療法が見つかりました!」
「――治療法?」
「そうです。私がアルバート様のキノコを食べてしまえば良いのです。だってアルバート様はご健康そうですし、お身体を蝕む毒を持ったキノコではなさそうですから」
だからキノコを出して下さい。
意気揚々とそう続けようとして、アルバートに遮られた。
「――それは誰に教わったの?」
「フレデリック様です。食べてしまえばいいとアドバイスを下さって」
「フレデリックが……?」
「はい。もし上手にできなかったら詳しく教えて下さると約束もして下さいました」
そう口にした途端、瞬時にしてアルバートの周囲の空気が冷えはじめたのは気のせいだろうか。
「アル、バート……様……? ――きゃっ!」
強い力で乱暴にベッドの上に押し倒される。
何が起こったのか分からなくて視線を上げた。見たこともない険しい表情のアルバートと目が合った。普段の優しい表情とはまるで別人で、見知らぬ人のようだ。怖くて身体が震えてしまう。
そんなプリムローズを冷ややかに見下ろしてアルバートは皮肉げに笑った。
「夫である私がこうしても怯えるのに、それで本当に会ったばかりのフレデリックと閨を共にできるとでも?」
「フレデリック様と閨を共になんてしません。わたくしがアルバート様に上手くできるように教えて下さるだけです」
「だから、それが……!」
閨を共にしたいと思うのはアルバートだけだ。
肌に触れて欲しいのも。愛して欲しいのも。だからそこは声を震わさずに否定した。
でもアルバートは先程から激しい怒りを顕わにしている。
荒ぶった声にプリムローズは反射的に身をすくませた。怒鳴り声といったものに、彼女はまるで慣れていない。そうでなくともアルバートの変貌っぷりが、ただただ怖かった。
「ごめん、なさい」
今度は震える声で必死に謝罪の言葉を絞り出す。
だけど何に対して謝罪したら良いのか分からなくて、その言葉は我ながらとても虚しいものだった。
部屋中に重苦しい沈黙が満ちる。
プリムローズは涙がこぼれそうになるのを堪えた。
自分に泣く資格なんてない。
「――すみません。少し頭を冷やして来ます。姫は先に寝ていて下さい」
ひどく苦しそうな顔でアルバートはベッドを下り、部屋を出て行く。
傷つけて、しまった。
そう。怒らせたんじゃない。プリムローズはまた無責任な行動を取って傷つけたのだ。
まるで心そのものを閉ざすかのように閉められたドアを、はらはらと涙をこぼしながら見つめることしかできなかった。
シーツに入って眠る体勢を取るから、料理の話に夢中になって眠ってしまうのだ。やはり眠らない為には、何があっても眠らないのだという気概を見せなければならない。
「姫?」
バスルームから戻ったアルバートが怪訝そうな顔をする。
多分きっと、また良からぬことを企んでいると思われているに違いない。でも今回は良いことだ。何しろ、治療なのだから。
「アルバート様のご病気の治療法が見つかりました!」
「――治療法?」
「そうです。私がアルバート様のキノコを食べてしまえば良いのです。だってアルバート様はご健康そうですし、お身体を蝕む毒を持ったキノコではなさそうですから」
だからキノコを出して下さい。
意気揚々とそう続けようとして、アルバートに遮られた。
「――それは誰に教わったの?」
「フレデリック様です。食べてしまえばいいとアドバイスを下さって」
「フレデリックが……?」
「はい。もし上手にできなかったら詳しく教えて下さると約束もして下さいました」
そう口にした途端、瞬時にしてアルバートの周囲の空気が冷えはじめたのは気のせいだろうか。
「アル、バート……様……? ――きゃっ!」
強い力で乱暴にベッドの上に押し倒される。
何が起こったのか分からなくて視線を上げた。見たこともない険しい表情のアルバートと目が合った。普段の優しい表情とはまるで別人で、見知らぬ人のようだ。怖くて身体が震えてしまう。
そんなプリムローズを冷ややかに見下ろしてアルバートは皮肉げに笑った。
「夫である私がこうしても怯えるのに、それで本当に会ったばかりのフレデリックと閨を共にできるとでも?」
「フレデリック様と閨を共になんてしません。わたくしがアルバート様に上手くできるように教えて下さるだけです」
「だから、それが……!」
閨を共にしたいと思うのはアルバートだけだ。
肌に触れて欲しいのも。愛して欲しいのも。だからそこは声を震わさずに否定した。
でもアルバートは先程から激しい怒りを顕わにしている。
荒ぶった声にプリムローズは反射的に身をすくませた。怒鳴り声といったものに、彼女はまるで慣れていない。そうでなくともアルバートの変貌っぷりが、ただただ怖かった。
「ごめん、なさい」
今度は震える声で必死に謝罪の言葉を絞り出す。
だけど何に対して謝罪したら良いのか分からなくて、その言葉は我ながらとても虚しいものだった。
部屋中に重苦しい沈黙が満ちる。
プリムローズは涙がこぼれそうになるのを堪えた。
自分に泣く資格なんてない。
「――すみません。少し頭を冷やして来ます。姫は先に寝ていて下さい」
ひどく苦しそうな顔でアルバートはベッドを下り、部屋を出て行く。
傷つけて、しまった。
そう。怒らせたんじゃない。プリムローズはまた無責任な行動を取って傷つけたのだ。
まるで心そのものを閉ざすかのように閉められたドアを、はらはらと涙をこぼしながら見つめることしかできなかった。