白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
冷たい夜
「殿下、いかがなされましたか」
「このような時間にどちらへ」
今にも泣き出しそうなプリムローズの表情から逃げるように寝室を後にすると、自室で適当な服を取り出して手早く着替えた。そのうえで部屋を出れば、扉の両側で見張りをしていた二人の衛兵が驚いた様子で声をかけて来る。
まだ深夜にはなっていない時間帯とは言え、夜に王太子が一人で城内をうろつくとあっては看過できないのだろう。万が一、アルバートに何かあっては彼らの面子を潰すことにもなる。
「朝までに確認が必要な書類があったのを忘れていた。執務室に行く」
「今からですか? 明日の朝でもよろしいのでは」
「夜が明けてからでは間に合わない」
取ってつけたような言い訳に戸惑う衛兵に、このまま留まってプリムローズの護衛を続けるよう命じた。
ありえないことだが、これ幸いとばかりに間男――それはフレデリックなのだろうか――が彼女の元に向かったら、アルバートはその男を殺してしまいかねない。
薄暗い廊下を巡回する見回りの衛兵と何度かすれ違いながら、他に行く場所もなくて執務室に向かった。
最悪だ。
最低だ。
白い結婚を決めて、そう切り出したのは自分なのに、彼女の肌に他の男の手が触れると思ったら嫉妬心が止められなかった。
本当に愛する男と幸せになるということはそういうことだ。だけど顔も知らない、今いるかも分からないその男が憎いとさえ思ってしまう。
どうして自分ではないのかと思ってしまう。
鍵を開けて執務室に入り、内側から鍵をかける。灯りもつけずに暗い室内を奥へと真っすぐに向かい、仮眠用のベッドに横たわった。
彼女が隣で眠らない夜は、こういうものなのか。
結婚前はそれが当たり前だったのに今は心が冷え切っていて、眠れそうになかった。
一睡もできずに朝を迎えた。
つい自分の左側を確認して深いため息を吐く。
(いてくれるはずもないのに)
ベッドを抜け、顔を洗う。
何もすっきりとしないまま文机に向かった。鍵のかかった引き出しから急ぎではない書類を取り出して目を通す。
「あれ、今日は早いな」
書類がほぼ片づいた頃フレデリックがやって来た。
手には書類の山を抱えている。今日の午前中の新しい職務ということだ。
――それにしても。
「彼女に何を入れ知恵した?」
「入れ知恵って、何が」
どさりと大きな音を立て、フレデリックは紙の束を机上に置いた。
心当たりがないはずもないだろうにしらを切る従兄に、アルバートの眉間に深くしわが寄せられる。
「彼女が言っていた。――お前に、教わったと」
「このような時間にどちらへ」
今にも泣き出しそうなプリムローズの表情から逃げるように寝室を後にすると、自室で適当な服を取り出して手早く着替えた。そのうえで部屋を出れば、扉の両側で見張りをしていた二人の衛兵が驚いた様子で声をかけて来る。
まだ深夜にはなっていない時間帯とは言え、夜に王太子が一人で城内をうろつくとあっては看過できないのだろう。万が一、アルバートに何かあっては彼らの面子を潰すことにもなる。
「朝までに確認が必要な書類があったのを忘れていた。執務室に行く」
「今からですか? 明日の朝でもよろしいのでは」
「夜が明けてからでは間に合わない」
取ってつけたような言い訳に戸惑う衛兵に、このまま留まってプリムローズの護衛を続けるよう命じた。
ありえないことだが、これ幸いとばかりに間男――それはフレデリックなのだろうか――が彼女の元に向かったら、アルバートはその男を殺してしまいかねない。
薄暗い廊下を巡回する見回りの衛兵と何度かすれ違いながら、他に行く場所もなくて執務室に向かった。
最悪だ。
最低だ。
白い結婚を決めて、そう切り出したのは自分なのに、彼女の肌に他の男の手が触れると思ったら嫉妬心が止められなかった。
本当に愛する男と幸せになるということはそういうことだ。だけど顔も知らない、今いるかも分からないその男が憎いとさえ思ってしまう。
どうして自分ではないのかと思ってしまう。
鍵を開けて執務室に入り、内側から鍵をかける。灯りもつけずに暗い室内を奥へと真っすぐに向かい、仮眠用のベッドに横たわった。
彼女が隣で眠らない夜は、こういうものなのか。
結婚前はそれが当たり前だったのに今は心が冷え切っていて、眠れそうになかった。
一睡もできずに朝を迎えた。
つい自分の左側を確認して深いため息を吐く。
(いてくれるはずもないのに)
ベッドを抜け、顔を洗う。
何もすっきりとしないまま文机に向かった。鍵のかかった引き出しから急ぎではない書類を取り出して目を通す。
「あれ、今日は早いな」
書類がほぼ片づいた頃フレデリックがやって来た。
手には書類の山を抱えている。今日の午前中の新しい職務ということだ。
――それにしても。
「彼女に何を入れ知恵した?」
「入れ知恵って、何が」
どさりと大きな音を立て、フレデリックは紙の束を机上に置いた。
心当たりがないはずもないだろうにしらを切る従兄に、アルバートの眉間に深くしわが寄せられる。
「彼女が言っていた。――お前に、教わったと」