白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
愛の告白
「アルバート、様……?」
その表情には見覚えがあった。
初めて会った時と同じだ。あの時のアルバートは母である王妃を亡くしたばかりなのだと後で知った。そんな痛切な表情を向けられては心が揺らぐ。プリムローズはアルバートが変わらずに好きなままなのだ。アルバートの方が年上なのに、守りたいと思ってしまう。
「少しの時間だけでも構いません。あなたと話がしたい」
話したいのは今後についてだろう。
今まで表立って姿を見せなかったアルバートの恋人であるエリザベスが、とうとうプリムローズの前に現れた。ならば誤魔化しのきかない亀裂が入る前に、しっかりと決めておくべきことだ。
同意がない白い結婚なんて続かない。プリムローズはやっぱりアルバートが好きなままで、妥協なんてできないのだからなおさらだった。
プリムローズが覚悟を決めて頷き返せば、手を離すことのないままアルバートは足を進めた。プリムローズの歩幅に合わせてくれている気遣いを感じる。だけど手首を遠慮がちに掴まれてはいても、手を繋いではくれない。
(わたくしはアルバート様の政略上の妻であるというだけで、恋人ではないものね)
だから手を繋がないのも当然だと言い聞かせたって、悲しい想いが胸を満たす。
そうして部屋に辿り着くと手はあっけないほど簡単に離れるのも、悲しい。
二人が向き合って座るのを見てイレーヌが紅茶を淹れてくれる。
ただし話し合いの場に顔を出すわけには行かない。手早く支度を終え、プリムローズを労わるような視線を向けつつ部屋を後にした。
「一年と言わず明日にでも離縁して祖国フィラグランテに帰ろうと思います。未熟なわたくしでは由緒あるイルダリアの王妃は務まりそうにないと皆様には説明致しますから、どうぞご安心下さい」
先に口を開いたのはプリムローズだった。
エリザベスに傷つけられた心が痛い。
言われなくても、アルバートに愛されていないのは自分自身がいちばんよく分かっている。嫁いで来た日から――政略結婚が決まった日から分かっていたことだ。
それでも、事実として突きつけられるのはつらい。早く一人になって大きな声で泣きたかった。
プリムローズが一年の経過を待たずに離婚を申し出るとは思っていなかったらしい。アルバートが目を見開く。再び傷ついたような顔をして、言葉を絞り出した。
「それは――できません」
「どうしてですか」
十年前から決められていた政略結婚が、プリムローズのわがまま一つで三カ月も経たずに終わらせられるものでもない。
でも、終わらせるべきだと思った。
アルバートだってエリザベスの言うように一日も早く離婚したいのではないのか。
分からなくなる。
「妻として愛して欲しいと願うのはだめ。明日帰るのもだめ。アルバート様が他の方とご結婚なさる日まで、わたくしは一年間ずっと檻の中にいろと仰るのですか」
どう振る舞えば良いのか、教えて欲しい。
分からなくて、プリムローズはありったけの気持ちを言葉にして伝えた。自分でも分からないことは、自分ではないアルバートには言葉で伝えないと分かってもらえるはずもない。
ましてや話し合える機会は、これが最初で最後だと思うから。
その表情には見覚えがあった。
初めて会った時と同じだ。あの時のアルバートは母である王妃を亡くしたばかりなのだと後で知った。そんな痛切な表情を向けられては心が揺らぐ。プリムローズはアルバートが変わらずに好きなままなのだ。アルバートの方が年上なのに、守りたいと思ってしまう。
「少しの時間だけでも構いません。あなたと話がしたい」
話したいのは今後についてだろう。
今まで表立って姿を見せなかったアルバートの恋人であるエリザベスが、とうとうプリムローズの前に現れた。ならば誤魔化しのきかない亀裂が入る前に、しっかりと決めておくべきことだ。
同意がない白い結婚なんて続かない。プリムローズはやっぱりアルバートが好きなままで、妥協なんてできないのだからなおさらだった。
プリムローズが覚悟を決めて頷き返せば、手を離すことのないままアルバートは足を進めた。プリムローズの歩幅に合わせてくれている気遣いを感じる。だけど手首を遠慮がちに掴まれてはいても、手を繋いではくれない。
(わたくしはアルバート様の政略上の妻であるというだけで、恋人ではないものね)
だから手を繋がないのも当然だと言い聞かせたって、悲しい想いが胸を満たす。
そうして部屋に辿り着くと手はあっけないほど簡単に離れるのも、悲しい。
二人が向き合って座るのを見てイレーヌが紅茶を淹れてくれる。
ただし話し合いの場に顔を出すわけには行かない。手早く支度を終え、プリムローズを労わるような視線を向けつつ部屋を後にした。
「一年と言わず明日にでも離縁して祖国フィラグランテに帰ろうと思います。未熟なわたくしでは由緒あるイルダリアの王妃は務まりそうにないと皆様には説明致しますから、どうぞご安心下さい」
先に口を開いたのはプリムローズだった。
エリザベスに傷つけられた心が痛い。
言われなくても、アルバートに愛されていないのは自分自身がいちばんよく分かっている。嫁いで来た日から――政略結婚が決まった日から分かっていたことだ。
それでも、事実として突きつけられるのはつらい。早く一人になって大きな声で泣きたかった。
プリムローズが一年の経過を待たずに離婚を申し出るとは思っていなかったらしい。アルバートが目を見開く。再び傷ついたような顔をして、言葉を絞り出した。
「それは――できません」
「どうしてですか」
十年前から決められていた政略結婚が、プリムローズのわがまま一つで三カ月も経たずに終わらせられるものでもない。
でも、終わらせるべきだと思った。
アルバートだってエリザベスの言うように一日も早く離婚したいのではないのか。
分からなくなる。
「妻として愛して欲しいと願うのはだめ。明日帰るのもだめ。アルバート様が他の方とご結婚なさる日まで、わたくしは一年間ずっと檻の中にいろと仰るのですか」
どう振る舞えば良いのか、教えて欲しい。
分からなくて、プリムローズはありったけの気持ちを言葉にして伝えた。自分でも分からないことは、自分ではないアルバートには言葉で伝えないと分かってもらえるはずもない。
ましてや話し合える機会は、これが最初で最後だと思うから。