白い結婚なんて絶対に認めません! ~政略で嫁いだ王女は甘い夜を過ごしたい~【全年齢版】
「イレーヌだって、学ぼうとする心がけは大切だって言っているじゃない」
「それは申し上げておりますが……何でも良いというわけではございません」
「どうして?」
「今ご覧になっている本に至っては先日、書かれている内容はほとんど覚えられたと仰っていたではありませんか」

 イレーヌはさらに呆れた様子で言及を続けた。
 そもそもあまり厚い本でもない。三十ページくらいの、どちらかと言えば薄い本だ。それを毎日毎日、飽きもせず読み込んでいるとあっては、内容を全て覚えるのも当然だった。

「だって」

 プリムローズはようやく愛らしい顔を上げた。

 故郷のフィラグランテとはまた違うイルダリアの景色だってとても好きだ。初恋の王太子が生まれ育った国だし、あるもの全てが別の色に輝いて見える。
 だけど今はのんびりと景色を楽しんでいる場合ではなかった。
 少なくとも、プリムローズにとっては大切な日をより素晴らしい日にする為の知識を再確認しているところなのだ。
 正面に座るイレーヌへとページを大きく開いて見せる。

「ねえ見て、イレーヌ。まずは控え目に甘く優しい、情熱的な激しい口づけからはじめましょう、ってあるのよ。まずは、ってことは最初の段階だと思うのだけど、いきなり要求が多すぎると思わない?」
「そうですね」

 このやりとりも何度目だろうか。
 イレーヌは全く心のこもっていない声で形ばかりの同意を返す。

 プリムローズより三歳年上のイレーヌは、書かれている内容に当初は恥じらったり目を白黒させていたりした。
 何しろ本に書かれているのは男女の秘め事に関することばかりだったからだ。そんなはしたない本を嫁入り前の王女が読んではいけないと叱られたりしたけれど、むしろ嫁ぐことが決まったからこそ読むのである。
 プリムローズには、イルダリア国の王太子アルバートの子種を授かり、後継ぎを残すという重大な役目ができた。

 本を読んでその為の知識を得てはいけないのなら、イレーヌが詳しく教えて欲しい。

 そう頼んだら以降は黙認するようになった。ただしページの一部が破られたり塗り潰されたり、イレーヌによる相応の〝検閲〟は入っている。プリムローズも正直、未婚のイレーヌに対してあの時は無茶なお願いをしたと反省はした。
 でも、それとこれとは別だ。
 本を膝の上に置き、両手の指を口元でそっと組む。

(アルバート様……ようやく、あなたの元にお嫁に行ける日がやって来ました)

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