お嬢様、庭に恋をしました。

好きじゃないけど、否定はしない。たぶん。

「……で、聞いてよ舞花。
隣の席のやつが“これって運命じゃない?”って言ってきたんだけど、
それ、3回目なの。私のコーヒーと間違えて飲むの」

「……それ、運命じゃなくて衛生管理の問題じゃない?」

「ね!? 飲みかけだったんだよ!? で、こっちは“飲んじゃったしあげる”って。何プレイよそれ」

会社のミーティングスペース。
出勤日の、舞花はランチ後のコーヒー片手に、
同僚の美羽とくつろぎモード。

「舞花もそろそろ“運命”っぽい人、現れた?」

「え〜? いないいない。……っていうか、“運命”ってわかりやすく来る?」

「来る来る。“あ、この人……雑草よりトゲある”とか思ったら、それ運命」

「……え」

ストローを止めた舞花に、美羽が即反応する。

「なに?今なにか思い出した顔した! え、いるの?トゲ男!?」

「いや……いや、別に……ちょっと感じ悪い庭師さんがいただけで……」

「は〜〜〜〜〜!? 聞き捨てならん! 恋の予感ってこと!?」

「予感じゃない! 気のせい! 勘違い! “よく見たら顔がいい”ってだけ!」

「“よく見たら”は大体見てるやつなんよ」

美羽のつっこみが鋭くて、舞花はコーヒーで咳き込みそうになる。

「……別にね、優しいとか、気づいてくれるとか、そういうのじゃ……」

(あ、水くれたやつ、完全に該当してる……)

「うわ、舞花いま完全に回想してたでしょ!? その目、“BGM流れてる時”のやつだよね!?」

「いやいやいやいや」

慌てて否定しながらスマホをいじるふり。
でもその画面に、ふと通知が届く。
“明日、雨予報。足元注意”──天気アプリ。

(……雨。明日、庭行くの、やめとこうかな)

そう思ったはずなのに、次の瞬間。

(……でも、来てるかどうか、ちょっとだけ見てみようかな)

自分の思考に驚いた。

「会いたい」とも「話したい」とも思ってない。……はず。

だけど、少しでも顔が見えるなら、

それはきっと、悪くない。

──好きじゃないけど。好きって言われたら否定はしない。たぶん。

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