お嬢様、庭に恋をしました。
なんで今日だけ、そんな感じなの。
「ただいま〜」
アウトレット帰り、
玄関をくぐった瞬間、舞花の足は勝手に庭方向へ向かっていた。
(……あ、帽子がある。来てる)
思わず心臓がドクンと鳴った。
「別に、会いたかったとかじゃないし。……ないし!」
誰に言い訳してるのか分からないまま、
庭へ出ていくと──
「あ、お疲れ様です」
「……あ、こんにちは」
悠人はいつもの作業服、いつものトーン。
……なのに、なんとなく。
いつもより、よそよそしい気がした。
(あれ?)
昨日のこともあったし、
正直、笑ってくれるなんて期待できないってわかってた。
佐久間くんとのあの空気。
……椎名さん、気にしてたのかもしれない。
でもそれでも、
ほんの少しだけ──
今日も、あのやわらかい笑顔が見れるんじゃないかって、
勝手に思ってた。
……違った。
彼の表情は変わらない。
作業も黙々と続けている。
(……そっか。やっぱり)
──だから、余計に苦しくなる。
「……今日はアナベル、元気ですね」
「そうですね」
「雨も降らなかったし、よかったです」
「……ええ」
……薄い!!
会話の返し、超・薄い!!
「今日、家族でちょっと出かけてて」
「そうでしたか」
「アウトレットで、妹に服買わされて、
……あ、でも庭着は死守しましたけど」
「……それは何よりです」
……なにこの、“はいはい、そうですか”モード。
(……え、なに? 私、なにかした?)
昨日の佐久間のこと、やっぱり気にしてる?
それとも、私が謝ったのがそんなに気に障った?
それとも……それとも……
「……なんで、今日だけ、そんな感じなんですか」
思わず、口に出していた。
悠人の手が止まる。
はさみを握ったまま、少しだけこっちを見る。
「……そんなつもりは」
「……でも、冷たいです。今日は」
風が吹いた。
アナベルの花が揺れる。
言ったあとで、
なんでこんなこと言ってるんだろうって思った。
(だって……冷たくされたくなかった)
(優しくされたいって、思ってた)
(たぶん私……)
「……わかりました。失礼しました」
自分でも意味がわからないまま、
舞花はぺこっと頭を下げて、庭から足早に戻った。
玄関の扉を閉めた瞬間。
自分の胸の奥が、ズキンと痛んだ。
──ああ。これ、多分もう。
わかっちゃった。
「私、椎名さんのこと、気になってるどころじゃない……」
やっと、自分の気持ちに
名前をつけられそうになった。
でもそれは、
少しだけ痛い、名前だった。
アウトレット帰り、
玄関をくぐった瞬間、舞花の足は勝手に庭方向へ向かっていた。
(……あ、帽子がある。来てる)
思わず心臓がドクンと鳴った。
「別に、会いたかったとかじゃないし。……ないし!」
誰に言い訳してるのか分からないまま、
庭へ出ていくと──
「あ、お疲れ様です」
「……あ、こんにちは」
悠人はいつもの作業服、いつものトーン。
……なのに、なんとなく。
いつもより、よそよそしい気がした。
(あれ?)
昨日のこともあったし、
正直、笑ってくれるなんて期待できないってわかってた。
佐久間くんとのあの空気。
……椎名さん、気にしてたのかもしれない。
でもそれでも、
ほんの少しだけ──
今日も、あのやわらかい笑顔が見れるんじゃないかって、
勝手に思ってた。
……違った。
彼の表情は変わらない。
作業も黙々と続けている。
(……そっか。やっぱり)
──だから、余計に苦しくなる。
「……今日はアナベル、元気ですね」
「そうですね」
「雨も降らなかったし、よかったです」
「……ええ」
……薄い!!
会話の返し、超・薄い!!
「今日、家族でちょっと出かけてて」
「そうでしたか」
「アウトレットで、妹に服買わされて、
……あ、でも庭着は死守しましたけど」
「……それは何よりです」
……なにこの、“はいはい、そうですか”モード。
(……え、なに? 私、なにかした?)
昨日の佐久間のこと、やっぱり気にしてる?
それとも、私が謝ったのがそんなに気に障った?
それとも……それとも……
「……なんで、今日だけ、そんな感じなんですか」
思わず、口に出していた。
悠人の手が止まる。
はさみを握ったまま、少しだけこっちを見る。
「……そんなつもりは」
「……でも、冷たいです。今日は」
風が吹いた。
アナベルの花が揺れる。
言ったあとで、
なんでこんなこと言ってるんだろうって思った。
(だって……冷たくされたくなかった)
(優しくされたいって、思ってた)
(たぶん私……)
「……わかりました。失礼しました」
自分でも意味がわからないまま、
舞花はぺこっと頭を下げて、庭から足早に戻った。
玄関の扉を閉めた瞬間。
自分の胸の奥が、ズキンと痛んだ。
──ああ。これ、多分もう。
わかっちゃった。
「私、椎名さんのこと、気になってるどころじゃない……」
やっと、自分の気持ちに
名前をつけられそうになった。
でもそれは、
少しだけ痛い、名前だった。