お嬢様、庭に恋をしました。

ニヤけてるって、言われたくなかった

「ねえ舞花、最近さ──」

「なに?」
 
食後、リビングでお茶を飲んでいた舞花に、
妹・梨花が顔をじっと覗き込んできた。
 
「顔……ゆるくない?」

「ゆるくない」

「いや絶対ゆるい。ていうか“ニヤけてる”」

「ニヤけてないから!?」
 
慌ててカップで口元を隠す。
でも確かに、思い返していた。
さっき庭で悠人と話した、ほんの数分のことを。
 
「……てかさ、もしかして、
お庭の人と……いい感じだったりする?」

「ぶっ!?」

コーヒー吹きかけかけて、慌ててハンカチで口を押さえる。

「な、なにその想像力!?ないから!ないないない!」

「そんな慌てる? わっかりやす!」

「はー……もう、梨花うるさい」

顔を逸らしてソファに沈み込む舞花に、梨花は腕を組んでにやにや。
 
「ふーん。でもまあ、悪くないかもね。
庭師さんってことは、誠実そうだし、筋肉あるし」

「そこ見る?」

「大事でしょ!筋肉と誠実さって恋愛の基盤よ」

「なんの持論なのそれ……」
 
そこへ、母がふらりと台所からやってくる。

「舞花、お茶のおかわり……あら、顔赤いわよ?熱?」

「ちがう!お風呂上がりだから!ほてってるだけ!」

「……もしかして、恋?」

「母までやめてー!!」

「“庭師の椎名さん”、いい方じゃない。静かで落ち着いてて」

「名前覚えてるのやめて!!恥ずかしい!!」

「いいじゃない。推しが現実に現れたってやつ?」

「推しっていうか……いや、ちがうし!!」

「そのわりに、庭出るとき服ちょい選んでない?」

「はっ!?選んでないしっ!!気温の問題!」

「“恋する気温差スタイリング”ね?」

「やめてーーーー!!!」
 
ふたりの視線が刺さる中、
舞花は耐えきれず席を立った。
でも、部屋に戻ったあと──
鏡を見たら、自分でもわかった。
 
(……ほんとだ、ちょっとニヤけてる)
だれかに何かを言われる前に、
自分の気持ちに向き合った方が早いのかもしれない。
 
それくらいにはもう、“椎名さん”のことが、
生活の中に入り込んできていた。
 
──少しずつ、
でも確実に、“好き”が染み込んできてる。


< 28 / 85 >

この作品をシェア

pagetop