お嬢様、庭に恋をしました。
お嬢様、恋する気ゼロらしい
月曜の午前9時45分ー
舞花は、編集部が入るビルの10階──ガラス張りのフロアの一角にある自分のデスクで、早くも疲労を感じていた。
「舞花、例の特集記事の写真、再送されてたよ。あの“照明ミス”ってやつ」
「えー……また? 昨日直したのに……!」
すぐ隣の席にいる同僚が、マグ片手に伝えてくる。
舞花は思わず額を押さえながら、デスクトップの画面を見やった。
モニターには、同じ写真が3パターン、無情に並んでいる。
(……影、ズレてるなぁ。こっち、やっぱり逆光気味か)
大きな窓の外には、春の青空と、ビル風に揺れる街路樹。
一見おしゃれなオフィスに見えるが、舞花の気持ちは朝からどんよりだ。
「カフェでのんびり仕事してそうってみんな言うけど……」
独りごとのように漏らしながら、ファイルを開き直す。
一見キラキラして見えるWeb編集の世界だが、
実際は“修正→再提出→再修正”の無限ループが日常茶飯事。
舞花は、某ライフスタイル系Webメディアの編集者。
企画出しに撮影手配、取材、記事の校正と、何でも屋状態だ。
今日は週3の出社日のうちのひとつ。
スーツの代わりにシンプルなブラウスとパンツスタイルで、午前のうちから頭はフル回転。
「おつかれ〜」
不意に背後から声が飛んできた。
振り向くと、美羽がマイボトル片手に近づいてくる。
桐原 美羽(24歳)。
同じチームで働く、大学時代からの友人。
職場では“姉御”と呼ばれるほど仕事ができるけれど、
私生活では舞花の恋愛事情を全力でいじってくるタイプだ。
「舞花さ、顔は完全に“港区女子”なのに、しゃべりが庶民すぎてギャップやばいよ」
「え、それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる!そういうとこ、推せる。で、彼氏できた?」
「はい出た。今日もその流れね」
美羽はすかさず椅子をくるっと回してこちらを正面に向く。
「てかさ、最近マジで恋愛の“れ”の字も出てこなくない? 舞花、枯れてるんじゃない?」
「誰が砂漠だ。むしろオアシスですけど」
「いや、オアシスに誰もいないんよ。ほら、そろそろ潤わせて?」
「恋ってさ、そんなに都合よく落ちてる?」
「落ちてるよ。たまに踏むよ?」
「落とし物か何かですか」
舞花は笑いながら、再び画面に視線を戻す。
──こうやって美羽と話しているときは、
恋のことなんて深く考えずにいられる。
でも本音を言えば、「彼氏が欲しい」と思ったことがないわけじゃない。
有栖川家の“お嬢様”という肩書きのせいか、
紹介される相手はみんな“条件の良い人”ばかりだった。
肩書き、家柄、資産──
そんなことより、「好きだな」と思える人に出会いたかっただけなのに。
お見合いの話も何度も断ってきた。
婚活アプリも、なんとなく肌に合わない。
(“ちゃんと好きになっていい人”に、まだ出会ったことがないだけ。たぶん)
舞花は自分に言い聞かせるように、マウスを握り直す。
──まさか “あんな感じの悪い人”と…これからのことを想像もしていない
舞花は、編集部が入るビルの10階──ガラス張りのフロアの一角にある自分のデスクで、早くも疲労を感じていた。
「舞花、例の特集記事の写真、再送されてたよ。あの“照明ミス”ってやつ」
「えー……また? 昨日直したのに……!」
すぐ隣の席にいる同僚が、マグ片手に伝えてくる。
舞花は思わず額を押さえながら、デスクトップの画面を見やった。
モニターには、同じ写真が3パターン、無情に並んでいる。
(……影、ズレてるなぁ。こっち、やっぱり逆光気味か)
大きな窓の外には、春の青空と、ビル風に揺れる街路樹。
一見おしゃれなオフィスに見えるが、舞花の気持ちは朝からどんよりだ。
「カフェでのんびり仕事してそうってみんな言うけど……」
独りごとのように漏らしながら、ファイルを開き直す。
一見キラキラして見えるWeb編集の世界だが、
実際は“修正→再提出→再修正”の無限ループが日常茶飯事。
舞花は、某ライフスタイル系Webメディアの編集者。
企画出しに撮影手配、取材、記事の校正と、何でも屋状態だ。
今日は週3の出社日のうちのひとつ。
スーツの代わりにシンプルなブラウスとパンツスタイルで、午前のうちから頭はフル回転。
「おつかれ〜」
不意に背後から声が飛んできた。
振り向くと、美羽がマイボトル片手に近づいてくる。
桐原 美羽(24歳)。
同じチームで働く、大学時代からの友人。
職場では“姉御”と呼ばれるほど仕事ができるけれど、
私生活では舞花の恋愛事情を全力でいじってくるタイプだ。
「舞花さ、顔は完全に“港区女子”なのに、しゃべりが庶民すぎてギャップやばいよ」
「え、それって褒めてる?」
「褒めてる褒めてる!そういうとこ、推せる。で、彼氏できた?」
「はい出た。今日もその流れね」
美羽はすかさず椅子をくるっと回してこちらを正面に向く。
「てかさ、最近マジで恋愛の“れ”の字も出てこなくない? 舞花、枯れてるんじゃない?」
「誰が砂漠だ。むしろオアシスですけど」
「いや、オアシスに誰もいないんよ。ほら、そろそろ潤わせて?」
「恋ってさ、そんなに都合よく落ちてる?」
「落ちてるよ。たまに踏むよ?」
「落とし物か何かですか」
舞花は笑いながら、再び画面に視線を戻す。
──こうやって美羽と話しているときは、
恋のことなんて深く考えずにいられる。
でも本音を言えば、「彼氏が欲しい」と思ったことがないわけじゃない。
有栖川家の“お嬢様”という肩書きのせいか、
紹介される相手はみんな“条件の良い人”ばかりだった。
肩書き、家柄、資産──
そんなことより、「好きだな」と思える人に出会いたかっただけなのに。
お見合いの話も何度も断ってきた。
婚活アプリも、なんとなく肌に合わない。
(“ちゃんと好きになっていい人”に、まだ出会ったことがないだけ。たぶん)
舞花は自分に言い聞かせるように、マウスを握り直す。
──まさか “あんな感じの悪い人”と…これからのことを想像もしていない