お嬢様、庭に恋をしました。

好きなら、貫け

昨日、お見合いの話があってから、
悠人に誤解しないでほしいこと、伝えたいのに。

庭に悠人の姿はなかった。
それはたまたまじゃない。
作業日でもない。
わかってた。
(……わたしが、ちゃんと伝えなかったから)

そんなモヤモヤ気分を晴らしたくて美羽とカフェで待ち合わせをしていた。

「……ちょっと、今すぐその罪な顔やめてもらえます?」
 
「……美羽」

舞花の横に、現れたのは、 美羽だった。
 
「舞花、そろそろぶちまけてもいい? いやぶちまけるね」

「え、なに?なんかあったの?」

「悠人氏、庭にいないんでしょ?」

「……っ、え、なんで知って──」

「“絶対なにかあった顔”してたから。てか昨日連絡なかったのも気づいてるから」

美羽の情報網、恐ろしすぎる。
 
「昨日、なんかあったんでしょ?」

「桐原さんとの結婚話されたの。
……見てたっぽくて。でも、何も言ってないのに、いなくなって」

「……はああああああ!?」

美羽の声が、庭中にこだました。
 
「ちょっと待って、何も聞かずに、何も言わずに、去ったの!?
あの男、心だけ平安貴族!? どこまで黙して耐えるの!?」
 
「……美羽落ち着いて」

「落ち着けるか!!悠人氏、好きなんでしょ? あんたのこと!」

「えっ……」

「絶対そうだった。
だって、手つないだでしょ?しかもわざわざ“つないでもいいですか”って言うタイプのやつでしょ?」

「……う、うん……」

「それが、“たまたま婚約者候補が来ただけ”で、離れるの!?」

「“だけ”じゃないかも……わたしが、何も言えなかったし」
 
美羽は、ちょっとだけ表情を和らげて、
舞花の横に座った。
 
「だったらさ──」

「“もういいや、って顔”やめようよ」

「え……」

「好きなら、さ。貫きなよ。
それが舞花の好きな人なんでしょ?」
 
風がそよぐ庭で、
いつもよりちょっとだけ強い美羽の言葉が、
やさしく背中を押してくるように響いた。
 
(好きだよ。ちゃんと、好きなんだよ)

心の中でそっとつぶやく。
あの日、握り返した手の感触は、
まだここに残ってる。

──それだけは、嘘じゃない。

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