お嬢様、庭に恋をしました。
この庭の主って、誰?
「この枝、勝手に切ったの、あなた?」
その日。庭でカチンとした声が響いたとき、舞花はちょうどベンチに紅茶を置いたところだった。
声の主は母。
悠人が剪定していた梅の木を睨みつけている。
「うちの庭は、代々手入れの仕方が決まってるんです。高橋さんには伝えてあるのよ?」
「はい、それは……知らなくて」
悠人は頭を下げた。いつもの無表情で、声のトーンも変わらない。
でも舞花はわかってしまった。“あ、これ、ちょっと不器用なやつだ”と。
(うわーこれ、謝り方がかたすぎて逆に火に油なパターン)
案の定、母の目がさらに鋭くなる。
「こういうのって、“知りませんでした、すみません!”で済む話じゃないのよ。こっちはね──」
「……お母さん、それ、私がお願いしたの」
口が勝手に動いていた。
「え?」
「……この前、梅の枝がちょっと視界にかかって気になったから、椎名さんに“切ってもらえますか”って、私が」
悠人が一瞬、こちらを振り向く。
驚いたような、でもすぐそらす、いつもの顔。
「そうだったの?……でも、何かあるなら先に言ってちょうだいね?」
「うん、ごめん。次からそうする」
母は軽くため息をついて、腕を組み直す。
「とにかく、有栖川の庭は簡単に手を入れていい場所じゃないの。覚えておいてちょうだいね」
そう言い残して、スカートを揺らして戻っていく。
静けさが戻るまでの、長い数秒間。
舞花は、自分でも信じられないくらい心臓がバクバクしていた。
「……助かりました」
「……あ、うん。勝手にしゃしゃり出てごめん。でも、なんか黙ってられなかった」
「俺、言い訳とか、下手なんで」
「それは、見てて分かる。っていうか、言葉選びがトゲあるし」
「雑草よりマシです」
「……またそれ! もう、“トゲ”が名刺に印刷されてるレベル!」
悠人がほんの少し、目を細めた。
笑った……ように見えた。
一瞬だったけど。
(……うわ、なんかズルい)
心の奥が、ちょっとだけ、揺れた。
その日。庭でカチンとした声が響いたとき、舞花はちょうどベンチに紅茶を置いたところだった。
声の主は母。
悠人が剪定していた梅の木を睨みつけている。
「うちの庭は、代々手入れの仕方が決まってるんです。高橋さんには伝えてあるのよ?」
「はい、それは……知らなくて」
悠人は頭を下げた。いつもの無表情で、声のトーンも変わらない。
でも舞花はわかってしまった。“あ、これ、ちょっと不器用なやつだ”と。
(うわーこれ、謝り方がかたすぎて逆に火に油なパターン)
案の定、母の目がさらに鋭くなる。
「こういうのって、“知りませんでした、すみません!”で済む話じゃないのよ。こっちはね──」
「……お母さん、それ、私がお願いしたの」
口が勝手に動いていた。
「え?」
「……この前、梅の枝がちょっと視界にかかって気になったから、椎名さんに“切ってもらえますか”って、私が」
悠人が一瞬、こちらを振り向く。
驚いたような、でもすぐそらす、いつもの顔。
「そうだったの?……でも、何かあるなら先に言ってちょうだいね?」
「うん、ごめん。次からそうする」
母は軽くため息をついて、腕を組み直す。
「とにかく、有栖川の庭は簡単に手を入れていい場所じゃないの。覚えておいてちょうだいね」
そう言い残して、スカートを揺らして戻っていく。
静けさが戻るまでの、長い数秒間。
舞花は、自分でも信じられないくらい心臓がバクバクしていた。
「……助かりました」
「……あ、うん。勝手にしゃしゃり出てごめん。でも、なんか黙ってられなかった」
「俺、言い訳とか、下手なんで」
「それは、見てて分かる。っていうか、言葉選びがトゲあるし」
「雑草よりマシです」
「……またそれ! もう、“トゲ”が名刺に印刷されてるレベル!」
悠人がほんの少し、目を細めた。
笑った……ように見えた。
一瞬だったけど。
(……うわ、なんかズルい)
心の奥が、ちょっとだけ、揺れた。